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殺した相手のスマホで、ロシア兵は故郷に連絡をした──「オシント」と戦争報道の新時代

2023年02月15日(水)08時09分
八田浩輔(毎日新聞外信部専門記者)

新時代の戦争報道

このような時代にあって、オシント的手法を取り入れたジャーナリズムの試みは自然の流れだ。それは報道における現場主義の伝統への挑戦ではなく、相互に補完する関係にある。

NYTによる検証の核となった目撃者たちの肉声や記録、監視カメラなどの映像は、現場に足を運ばなければ得られなかった内容だ。そこに公開情報を含むさまざまなデータに基づく検証を加えて隠れたファクトをあぶり出し、結論に至るまでのプロセスを開示するNYTの取り組みは、戦争報道の新しい可能性を示したと言えるのではないか。

任務中のロシア兵は、インターネットに接続できるカメラ機能付きの電子機器の使用を法律で禁止されている。自分自身や同僚に関する情報をSNSに投稿することも認められていない。これは、数年前までロシア兵たちが不用意に「自撮り」写真などをソーシャルメディアに投稿し、在野のオシント集団によって部隊の動きが丸裸にされたことに起因する。

しかし、ブチャを制圧した精鋭部隊に所属する若い兵士たちは、犠牲者の携帯電話を使って日常的にロシアに電話をかけていたのだという。「21世紀の地獄」と例えられたこの街で、故郷の愛する人たちの声を聞いた彼らは何を思ったのだろうか。オシントではその心まで読み解くことはできない。


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 『オシント新時代 ルポ・情報戦争
 毎日新聞取材班[著]
 毎日新聞出版[刊]

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