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殺した相手のスマホで、ロシア兵は故郷に連絡をした──「オシント」と戦争報道の新時代

2023年02月15日(水)08時09分
八田浩輔(毎日新聞外信部専門記者)

ブチャは侵攻序盤に首都への進撃拠点としてロシア軍に1カ月近く占拠された。ロシア軍が撤退した直後の4月初旬から現場に入った西側メディアの報道によって、世界はこの街で起きた無抵抗の市民への銃撃、性暴力などの蛮行を知る。

ウクライナ政府の発表によれば、ブチャでの犠牲者は分かっているだけでも460人近くに上った。NYTの一連の報道は、地元住民たちに「死の通り」と呼ばれた住宅街で遺体となって見つかった36人が、いつ、誰によって、どのように殺されたのかを8カ月かけてたどった記録だ。

3月初旬に街を制圧したロシア兵たちは、視界に入った街頭の監視カメラを手当たり次第に壊したが、見落としもあったらしい。

取材チームは破壊を免れたカメラや、住民がスマホで隠し撮りした映像、ウクライナ軍のドローンによる空撮映像などを独自に入手して分析。ロシア軍の第234空襲連隊が、市井の人々の拷問や「処刑」に関わった可能性があると突き止める。情報機関さながらの調査はこの先だ。

ロシア兵に尋問されたブチャの生存者たちの多くは、携帯電話を没収されたと証言した。取材チームはこれをヒントに、兵士たちが奪ったスマホでロシアの家族などと通信したのではないかと考えた。

ロシア軍の占領期間にブチャ周辺から発信された通話とテキストメッセージの記録をウクライナ当局から手に入れると、発信されるはずのない死者のスマホからロシアへの通信記録が数多く見つかった。

ロシア兵たちの親族とみられるその電話番号に紐付けられた複数のソーシャルメディアのアカウントをたどり、20人を超す兵士の氏名や画像を次々と割り出したのである。得られた情報は、ネット上に流出したロシア兵の個人情報データベースとも一致したという。

「戦争の霧を晴らす」公開情報

この戦争では、ソーシャルメディアに流れる画像・動画や衛星写真など誰でもアクセスできる情報が、戦況の分析や人道危機の把握に大きな役割を果たしている。

公開情報を集めて有用な知見を得るオシント(OSINT=open-source intelligence)は、長く諜報の世界における手法の一つとして認知されてきた。だが、開かれたデジタル空間を飛び交うデータの爆発的な増加を背景に、その担い手は非国家主体へと広がっている。

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