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2022年師走、『在日韓国人になる 移民国家ニッポン練習記』(CCCメディアハウス)をようやく刊行できた(プロローグをこちらで全文公開している)。2018年刊行の『アステイオン』89号に同名エッセイを寄稿して以来、1冊を仕上げるまで想像以上に長い月日をかけてしまった。
『アステイオン』89号の特集は「国籍選択の逆説」だった。在日3世の私が寄稿したエッセイ「在日韓国人になる」では、2000年代に「朝鮮」籍から「韓国」籍へ変えた経緯を記した。この論考を柱として、すでに公表していたその他の文章をまとめれば、1冊書き上げることは簡単だと思っていた。けれど、それは大外れだった。
拙著では、戦後の在日コリアンの歴史をふりかえっている。私や家族の話も出てくる。ただ、純粋な個人史とすることは避けたかった。「小さな歴史」を、より大きな政治的、社会的文脈に位置づけたいとの思いがあった。そのためにも、データや資料を集め、整理するという作業が必要であった。
また、在日の歴史や現在のみならず、さまざまなマイノリティをふくむ日本社会の「希望」に目を向けたかった。彩りゆたかなバックグラウンドを持つ人びとが、「ヨコ」のつながりを築くきっかけを模索できないか。そう思い、資料とにらめっこを続けた(とくに第9章や終章に、思案の跡が残っているので、お読みいただきたく思う)。
この本には、絶望的な状況にありながら、「強く」生きた人びとが出てくる。現実社会のみならず、映画のスクリーンの中やブラウン管の中で、がむしゃらに生きた者たち。彼らは、ときに意固地に、ときにぶざまに、ときに背筋をピンと張って、みずから歩む道を切り拓こうとした。
その強さは腕力を意味しない。正統かつ完全無欠なるヒーローやヒロインでもない。しかしその生き方は、希望ある未来を形づくる私たちに、何らかのヒントを与えてくれるのではないか。
戦後の在日は本当に苦しい歩みだったが、在日と日本人が恋に落ち、助けあい、傷をなめあい、前向きな腐れ縁を保ってきたことも事実なのだ。私の本ではこうした歴史をふまえ、日本には、まだまだ希望ある未来を引き寄せられる余地があることを示したつもりである。
vol.101
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