最後に、余談として、安藤の話で衝撃を受けた事実があったので、そのことも記しておく。それは、学会の査読雑誌の刊行ペースである。
安藤は、電気学会の編修委員として、毎月発刊されるというその雑誌の様々な企画や原稿の収集の仕事について話してくれたが、それは「文系」の私にとって信じられないものであった。
私がメインで所属する学会の学会誌は年に1冊の発行で、掲載される自由投稿論文の数も数本である。査読で掲載不可となった場合は、1年後に再チャレンジするか、他の学会誌に応募するしかない。そもそも「文系」の場合は、それほど短期間で複数の論文を完成させることはできない。「業績」の前提が全く異なっているのである。
このことをふまえると、大学全体で「業績」についての考え方を統一することがいかに問題のあることなのかがわかる。
これまで、いわゆる「理系」といわゆる「文系」の違いについて、空中戦的に考えてきたが、やはり現地にいって当事者と話してみることが重要であることを再認識した訪問であった。
私は、立命館大学に16年ほど所属したが、同じ大学であっても、これほど知らないことがあるのだと痛感させられた。考えてみれば、これは当たり前のことであるが、大学運営などの様子を見ていると、この当たり前が忘れられているような場面にしばしば出会う――特に予算や評価に関わる場面で。互いに敬意をもって、出会いなおすことが必要である。
※第3回:「植物の土壌」研究者を訪ねた驚き──けいはんなで文系と理系を考える に続く
櫻井悟史(Satoshi Sakurai)
1982年生まれ。立命館大学文学部卒業。同大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程修了。立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員、サントリー文化財団鳥井フェローを経て、現職。専門は、犯罪社会学、文化社会学、歴史社会学。主な研究テーマは、日本の死刑とキャバレー。単著に『死刑執行人の日本史──歴史社会学からの接近』(青弓社)がある。
『アステイオン』97号
特集「ウクライナ戦争──世界の視点から」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
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