たとえば、商品に対する価値がAにとっては1万円、Bにとっては4万円で、AがBに2万円でこの商品を転売したとしよう。このとき、Aは1万円(=2万円─1万円)、Bは2万円(=4万円─2万円)分の便益をそれぞれ得た、という風に経済学では考える。合わせて3万円分の付加価値が転売によって生まれるのである。また、1の変形版として
といった形で、AとBの間に仲介者として転売屋が入る場合も考えられるが、この転売屋も付加価値を生み出すため、その意味では「役に立つ」良い転売とみなすことができる。
たとえば、転売屋がAから2万円で商品を買い取りそれを3万円でBに販売したとすると、A、B、転売屋がそれぞれ1万円分ずつ便益を得ることになる。先ほどと同様、取引全体では3万円分の付加価値が新たに生み出されていることが分かるだろう。
筆者を含め、多くの経済学者は「転売」というキーワードを聞くと、反射的に1もしくは3のような取引をイメージするはずだ。どちらのケースも転売が付加価値を生み出しているため、「転売が問題である」と批判されてもあまりピンとこない、というのが実情ではないだろうか。
しかし、今回注目したような高額転売において問題になっているのは、これらとは異なる2のような転売である。3のように、不要になったアイテムをその所有者から購入して別の消費者に転売するのではなく、2の転売屋は様々な手段を使って生産者から直接商品を購入する。
こうした転売が、1や3のような付加価値を生み出さないことは明らかだろう。自分たちのリソースをせっせと使って、消費者Cが受け取るはずだった便益の一部を吸い上げているに過ぎないからだ。
こうした転売屋が増えれば増えるほど、一次市場で商品を購入できる消費者は減り、結果的に彼らは二次市場で高値で購入せざるを得なくなる。以上から、このような転売は社会の「役に立たない」、いわば悪い転売だと考えるべきである。
最後に、筆者が専門としているオークション設計の分野から、転売問題に活用できる学術知見を紹介したい。前述したように、転売を完全に防ぐには十分な値上げが必要である。
しかし、現実の需要は変動するため、どの程度の価格が適切であるかを事前に把握するのは難しい。価格が低すぎれば超過需要が発生して転売が起こり、高すぎれば大量に商品が売れ残る。後者の売れ残りリスクを恐れて価格を抑えてしまうと、結果として(転売屋以外は)誰も望まない高額転売が起きてしまう、といったジレンマ的な状況に置かれている売り手もいるだろう。
この悩ましい値決め問題を解決する仕組みが、以下で説明する「一様価格オークション」と呼ばれる(「均一価格オークション」とも呼ばれる)入札制度である。売り手側が価格をあらかじめ決めるのではなく、オークションを通じて買い手側に決めさせる、というのが一番重要なポイントだ。一様価格オークションのルールは次の通りである。
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