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※第2回:価格を上げると需要は下がる。この需要法則はいつでも正しい法則なのか?──「需要法則」からの接近(中)より続く
最後のトピックとして、需要法則の応用編という形で、定期的に世間の注目が集まる「転売問題」について考えてみよう。
人気アーティストのコンサート・チケットが手に入らず、二次市場で高値で売買される「高額転売」が大きな社会問題となったことは記憶に新しい。同様に、初期のコロナ禍では品切れとなったマスクが二次市場において高額で転売されていた。
ホビー市場では、一部のゲーム機などが店頭ではなかなか購入できず、長期にわたって二次市場において定価を遥かに上回る金額で売買されている。こうしたやや異常な状況は、需要法則をはじめとする経済学の考え方を使ってどのように分析することができるのだろうか。
まず気付く点として、チケットはコンサート会場の座席数、マスクやゲーム機は工場の生産キャパシティによってそれぞれ供給量が(短期的には)制限されている。そのため、経済学的にはこれらの高額転売は「供給量が一定の財に対して需要量が大きく上回っている」ために生じる問題、という風に整理することができる。
では、なぜこのような超過需要が生じるのか[問1]。高額転売をなくすためにはどうすればよいのか[問2]。そして、そもそも転売は社会の役に立っているのだろうか[問3]。これらの問いに対する答えは、平均的な世論と経済学者との間で大きく異なる。と、少なくとも筆者は感じている。具体的には、次のような返答が典型的ではないだろうか(図3)。
世論と経済学者の答えはどちらが正しいのだろうか。結論を先に言うと、見方によってはどちらも正しくどちらも間違っている、というのが筆者の考えである。
本稿のテーマである需要法則に基づくと、価格を上げれば需要が減るため、一次市場で十分な値上げさえ行えば超過需要は解消するに違いない。結果的に転売行為は儲からなくなり、世論が問題視する転売屋も自然と退散するだろう。
しかし、これによって「高額転売」問題が解決したと言えるかというと、それはやや微妙ではないだろうか。結局、高額売買が行われる市場が二次市場から一次市場に移るだけで、商品を手に入れるために高い価格を支払わなければならない、という点は変わっていないからだ。「転売」の部分は解決しても、「高額」なのは以前と全く同じで、買い手から見ると状況は改善していないのである。
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