アステイオン

アカデミック・ジャーナリズム

「あの人は研究しているのか」問題をめぐって思い起こす学者とメディア

2022年01月31日(月)15時55分
佐藤彰宣(流通科学大学人間社会学部講師)

「固定客」を重視するファンカルチャー志向は、既存のメディアのなかにも逆輸入されているようにみえる。先述したように総合雑誌は大学生から縁遠い存在となったが、それは単に大学生の変化によるものだけではない。総合雑誌の側もどちらかといえばシルバー世代に向けたものとなっており、年金や医療、介護など老後の生活にまつわる特集企画が組まれることも珍しくなくなった。総合雑誌にとっても、社会全体のマスな読者というよりは、総合雑誌が輝いていた時代の「固定客」を確保することが「生存戦略」となっている。

もちろん雑誌という媒体自体がもともと世代や性別、趣味ごとに細分化していく傾向にあるメディアなのだが、多様な議論の場としての総合雑誌ですらその「総合性」を保つことが難しくなっている。坊主が行う布教活動の対象範囲が、社会全体の最大公約数から、特定の固定客のみへと縮減しているのである。それはまた、アカデミズムの成果や価値が、それを「推してくれるファン」にしか届かないことを意味している。

こうしたなかで、いかにして価値観や理念の異なる他者との議論の場を確保していくのかを、今回の特集を読むなかで改めて考えさせられた。さまざまな人々の知が邂逅する場としての「都市らしさ」を掲げる『アステイオン』は、まさに「アカデミック・ジャーナリズム」の最後の砦といってもいいだろう。同誌を読みながら、これからも「アカデミック・ジャーナリズム」の役割について考えていきたい。

佐藤彰宣(Akinobu Sato)
1989年生まれ。立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。立命館大学産業社会学部授業担当講師、東亜大学人間科学部講師などを経て、現職。専門は文化社会学、メディア史。著書に『スポーツ雑誌のメディア史――ベースボール・マガジン社と大衆教養主義』(勉誠出版)、『〈趣味〉としての戦争――戦記雑誌『丸』の文化史』(創元社)、『近頃なぜか岡本喜八――反戦の技法、娯楽の思想』(共著、みずき書林)などがある。


asteion95-150.png

アステイオン95
 特集「アカデミック・ジャーナリズム」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

PAGE TOP