サントリーの創始者である鳥井信治郎の精神について、開高健はこんなふうに述べている。「細心に細心をかさね、起こり得るいっさいの事態を想像しておけ。しかし、さいごには踏みきれ。賭けろ。賭けるなら大きく賭けろ。賭けたらひるむな。徹底的に食いさがってはなすな。鳥井信治郎の慣用句 “やってみなはれ” にはそういうひびきがあった」(山口瞳・開高健,2003,『やってみなはれ みとくんなはれ』新潮文庫,262頁)。ここでいう「賭け」とは、運否天賦のことではない。様々な準備や検討を行ったうえでの未来への跳躍のことである。私は、キャバレー研究に取り組むにあたり、上述のような自身の経験だけでなく、研究者ならば誰でもするように、先人が積み上げてきた成果も当然検討している。そのうえで私はキャバレーを研究し、それが切り拓くであろう未来に「賭け」ているのである。
櫻井 悟史(さくらい さとし)
立命館大学大学院先端総合学術研究科 授業担当講師
2018年度鳥井フェロー
vol.101
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