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モンゴル、超ひも理論、シロアリ――サブタイトルに掲げられた3つのテーマだけを見て、どのような話が展開されるか想像がつくだろうか。そもそも、これらのテーマに関連性があるようには見えない。一体なにが起こるのか、どのような議論になるのかも想像がつかない。しかし、この未知の可能性に「賭ける」ようなテーマ設定こそ、これから紹介するイベントの趣旨そのものであったと、振り返ってみて思う。
2019年4月15日に開催された学芸ライヴ「役に立つって何?――モンゴル×超ひも理論×シロアリ」は、ファシリテーターである大竹文雄氏が3名のゲストを招き、それぞれの研究の紹介とテーマに関連する話題提供をしてもらったのちに、ディスカッションするという形式のものであった。ゲストとして招かれたのは、モンゴルを専門とする文化人類学者の小長谷有紀氏、超ひも理論を専門とする数少ない理論物理学者の橋本幸士氏、シロアリ研究を専門とする昆虫生態学者の松浦健二氏である。大竹氏によれば、一見何の役に立つかわからないというタイプの研究をしていること、大竹氏が個人的に話を聞いてみたかったことが、3名が選ばれた理由である。
近年、学問が一体何の役に立つのかと問われることが多くなった。このように問われるとき、実践的に役に立つのか、生活や暮らしの役に立つのか、金銭的に役に立つのかといったようなことが暗黙の前提とされている場合が多いように思う。私も大学院に進学する際に、「学問は金持ちの道楽である」とか、「学問をやっても食っていけない」といったような形で、学問は「役に立たない」と散々言われた記憶がある。こういったことにいかに回答するか。それが中心的な論点であった。
小長谷氏の研究でもっとも世間の注目を浴びたのは、チンギスハンについての研究であったという。遊牧研究をメインとする小長谷氏にとって、それは不本意であったが、自分たちの生産する知が、いつ、誰にとって有用なものになるかはわからない。そして、何を有用と見るかは社会の方の問題であって、自分の役割を超えている。だから有用性は考えずに学問に取り組んでいるというのが、小長谷氏の回答である。ただし成熟した社会はどんな知も有効活用するものであるに違いないと補足した。
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