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サントリー学芸賞

『サントリー学芸賞選評集』刊行記念企画vol.5 サントリー学芸賞と「文系・理系」

2019年04月04日(木)
安西祐一郎(日本学術振興会 顧問・学術情報分析センター所長)

こうした内容の著作が、一般的にも国内では少ないように見受けられるのは、もしかしたら、「科学」を西洋からの輸入モノとみなしてきた、明治以来の文化の残滓によるのかもしれない。また、高等学校(特に受験校)が、大学受験のために、高2あたりから「国立理系」、「私立文系」などなどのコース分けをしてしまうことに端を発しているのかもしれない。実際、大学の「理系」に進学すると、たかだか二十歳のころに少し学んだだけのことなのに、その後はまったく違った人生を歩んでも一生「理系」のレッテルを貼られることが多い。こうした「不自由思考」の文化が疑問もなくはびこっていることが、もしかしたら「文系」「理系」の両方を足場にしながら、しかもそれらを超えて時代と切り結ぶ作品にあまりお目にかかれない理由の底にあるのかもしれない。

サントリー学芸賞の「学芸」とは何を指すのだろうか。英語にはarts and sciencesと並立させることばがあるが、日本語では「学芸」と「科学」はどんな関係にあるのだろうか。あるいは、どういう関係にあると人は感じているのだろうか。「学芸」は民族や言語特有の文化に根ざすものなのか、その意味で西洋からの輸入品たる「科学」とは相容れないものなのか、長い間「文系」と「理系」の両方の場を行き来してきた筆者にも、いまだによくわからない。

これまでの歴史を振り返ってみれば、サントリー学芸賞は、時代を超えて多くの独創的な成果を世に広めてきた。ここに書いた筆者の思いについても、今までの40年がそうだったように、学芸賞自らが答えを出してくれるだろうと思う。サントリー学芸賞が今後も、世界潮流の大きな変化に「さわやかに」、「しなやかに」向き合いながら、「歴史の踊り場に立って」40年の歴史の先に新たな独創の世界を創り出していってくれることを望みたい。

*『サントリー学芸賞選評集』は下記サントリー文化財団Webサイト内にてe-pub形式でご覧いただけます。
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/list.html

安西 祐一郎(あんざい ゆういちろう)
日本学術振興会 顧問・学術情報分析センター所長

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