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大相撲「連帯責任」に物言いを

2010年07月06日(火)19時15分


 NHKが大相撲名古屋場所の生中継の中止を決めた。視聴者から1万2000件以上の電話やメールがあり、反対意見が68%を占めたという。ようやくほとぼりのさめた受信料支払い拒否がこれで再燃すれば、NHKにとっては確かに悪夢だろう。しかし世論に迎合し、賭博問題とは直接の関わりがない関係者やファンにまで責任を押しつけるような判断には疑問が残る。

 知っての通り、当初は名古屋場所の開催そのものの中止を求める声も多かった。しかしどの意見を聞いても、根拠がいま一つはっきりしない。ここ数年、不祥事が相次いでいることへの批判も多いが、頭から湯気を出して怒っている人の中には、あんた、相撲になんか興味ないでしょと言いたくなる人も少なくない。独りよがりの「義憤」で、相撲でまじめに飯を食っている人、テレビの本場所中継を心から楽しみにしている人の権利をこうも簡単に奪っていいのだろうか。

 今回の件でとがめを負うべきは、野球賭博に関わった親方、力士、床山など32人とそれぞれの所属部屋の親方11人、それに運営責任をもつ協会理事10人(外部以外)だろう。それらの人々には相応の処分・処罰が課されるべきだが、責任の所在を明確にして対策を講じるには、同時に処分の範囲と対象をきちんと限定することも必要だ。相撲に限らず、何でもかんでも連帯責任を取らせ、「けしからん」という気持ちを発散させることで事を済ませてしまい、個別の責任が置き去りにされることが多すぎる。

 高校野球ではおよそ1カ月前、部内での暴力や喫煙などで7校が対外試合禁止処分を受けた。以前によその学校で謹慎処分を受けていながら、再び部員に暴力を振るった監督もいる。これだけ毎年何校もの野球部が処分を受けていながら、飲酒、喫煙、暴力、恐喝が後を絶たない。注目度が高い競技だからという面もあるが、少なくとも連帯責任という責任の取らせ方は再発防止に何ら役立っていない。

 相撲の野球賭博では、処分の対象や内容についても過去の不祥事と比べてもう少し考えるべき点がある。大麻所持の若ノ鵬は検察は起訴猶予処分で協会は解雇、露鵬と白露山は尿検査陽性のみを根拠に解雇。一般男性への暴行を疑われた朝青龍は解雇されず、引退。野球賭博の直前に発覚した、土俵際の特別席入場券を暴力団関係者に手配していた問題では、木瀬親方が部屋閉鎖と降格だった。

 賭博の違法性やモラル的な問題の線引きはあいまいだ。2人が数百万円をすったのが競馬や競輪や競艇であれば問題なかったのか。暴力団の関わるヤミ賭博でも、賭けたのが数万円であれば解雇されるほどのことではないのか。他の不祥事と比べて大嶽親方と琴光喜の処分は重すぎ、フェアでない気もする。

 個々の力士や親方の個人としての責任は別にして、何よりも問題視すべきなのは相撲の世界と暴力団のつながりだと思う。NHKの中継中止も、昨年の名古屋場所で暴力団関係者が土俵際の席に座り、テレビの全国中継を利用して自らの影響力を誇示しようとしていたことが理由というのであれば、むしろ納得できる。自治体や企業、地域などが反社会勢力の排除に苦労している中で、受信料で経営されている局や税の優遇措置を受けている公益法人が彼らに利用されていたという事実は、報道されている以上に深い罪をもっている。

 プロ野球で黒い霧事件が起きた40年前は、問題となった八百長以外にも暴力団との関わりが次々と明るみに出たが、リーグの開催が中止されることはなかった。今とはもちろん社会の意識、感覚が異なるが、直接関わった者のみを厳しく処分することでプロ野球界は浄化されていった。連帯責任というあいまいなけじめのつけ方で満足するのでは、問題は解決しない。


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竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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