日曜日、新聞を見て驚いた。各社が週末に行った世論調査で、民主党の菅直人新首相に期待する(支持する)と答えた人が軒並み50%を超え、民主党の支持率、参院選で民主党に投票すると答えた人の率も大幅にアップしていた。共同通信は「新首相に期待」が57・6%で民主党支持が36・1%、朝日新聞は59%と33%、毎日新聞が63%と28%。鳩山さんが辞める前、内閣と民主党の支持率がともに20%前後まで落ち込んでいたのに比べて劇的な回復だ。
これ、おかしくないか。わずか数日で民主党政権の一体何が変わったというのか。調査は金曜日・土曜日(6/4~5)に行われているから、衆参本会議での所信表明演説はおろか、内閣や党役員の顔ぶれさえ定まっていない。
マニフェストの基本部分は新政権でも変わらないから、民主党政権自体に否定的な人がこの段階でもう「期待しない・支持しない」と答えるのはまだ理解できる。しかし、新内閣がどんなプラットフォームのもとにどんな政策を打ち出すのか、さっぱりわからないうちになぜ「期待する・支持する」と答えられるのか。
もし週末の時点で聞かれたら、私なら「迷っています」と答えた。内閣・党の人事が決まった月曜日に聞かれたら、「どちらかというと期待しない」。今年1月に財務相になってから最近までの発言を見ると、菅氏は財政再建と積極公共投資という、まったく逆のベクトルに同時に軸足を置こうとしているように思える。そこを整理するつもりが人事にはほとんど感じられないからだ。
「増税しても景気はよくなる」と菅首相は言ったが、成長戦略に関する説明やブレーンとされる経済学者の主張を読むかぎり、社会保障の財源を確保し将来不安を和らげて投資や消費を促すというより、政府がカネをばんばん使って景気をよくしてみせるつもりのようだ。財政規律を重視する発言をしてきた野田佳彦氏が財務大臣に格上げされたことを市場は好感しているようだが、何の議論もなく中小企業の借金は免除すると言い出すような金融担当相を据え置いたままで、整合性の取れた財政金融政策、景気対策を政府・党・日銀が本当に打ち出せるのか。
民主党政権に評価すべき点、期待すべき点はあると思うが、経済政策の「支離滅裂さ」に関する疑念が薄れないと、私は菅政権に「期待する」とは答えられない。少なくとも民主党が復活させたと胸を張る政策調査会での議論や、首相や財務相や金融相の発言動向をある程度確認できるまでは判断を留保する。イメージだけで持ち上げられた政権はイメージだけで失墜する。新政権に本当に期待するのであれば、政策の方向性をきちんと確認するまで「期待しない」ことが必要なのではないか。
世論調査そのものが無意味というわけではない。朝日新聞の調査には「菅政権は財政再建を進めるべきと思いますか」という質問があり、「はい」と答えた人は75%。有権者が何を重視しているかを明らかにすることが目的なら、世の中のムードや根拠のない高揚感しか反映されない質問ではなく、こちらを1面にもってくるべきだろう。