連休を利用して、久しぶりにソウルを訪れた。着いた日、二十数年ぶりに仁寺洞に行ってみて驚いた。骨董品店がたち並ぶ、静かで風情のあるイメージだった街並みが、韓紙や青磁にはあまり興味がなさそうな観光客と観光客目当ての安っぽい店がひしめく雑多な通りに変貌していた。
ホテルで出会った79歳の引退した元ビジネスマン(60代にしか見えない若々しさ)は、ソウル五輪や民主化の前と比べてもちろんソウルは大きく変わったが、ここ5年から10年ほどの変わりようはまた凄まじいと、しみじみ言っていた。市内の中心部を東西に流れるチョンゲチョン(清渓川)の近くを歩いてみて、なるほどと思った。
こんな川、昔はなかった。あったのだが、汚染がひどいため蓋をして隠してあった。それをソウル市長だった現大統領の李明博が2005年に再開発して広場や遊歩道や噴水をつくり、今では市民の憩いの場になっているらしい。東亜日報の本社から川をはさんだビルの韓国料理レストランで食事をしていると、ライトに照らされて夜景にとけこんだ広場でライブイベントをやっていて、仕事帰りの人々が確かに和んでいる。
前近代性の象徴だった川をこのようにつくり変えた実績が、李明博という政治家のイメージとして人々に刷り込まれているのかと、あらためて実感した。米国産牛肉の輸入問題で支持率が急落したように、いろいろと批判や不満もあるのだろうが、都市の日常の中でこういうふうに実感できて得られる印象というのはなかなか消えない。だから大都市の市長とか知事というのは、振興という名のもとに博覧会とかオリンピックとか大規模再開発を不必要なまでにやりたがるのだろう。
ホテルの部屋でテレビをつけると、現ソウル市長の呉世勲(オ・セフン)が壇上で夫人と手をとって声援に応え、勝利演説らしきものをしている。ハングルはわからないので何事かとネットを見たら、ハンナラ党の党内予備選で6月初めに行われる市長選(統一地方選)の公認候補に選ばれたのだった。
06年の市長選で李のあとを継いだ呉は49歳。いずれ国政でも李と同じ道をめざすのかどうか、それだけの資質や器量があると韓国の人々に認められているのかはわからないが、人口1000万人を超える巨大都市のトップの若さがとりあえずまぶしい。