続々と新党を立ち上げる政治家の方々によると、日本はとんでもないことになっているらしい。
「このままでは日本は沈没する。健全な批判勢力を参院につくることが第一歩だ」(たちあがれ日本・与謝野馨元財務大臣)
「日本丸は、もう沈んでいる。このまま沈むのを見届けるのは我慢ならない」(大阪維新の会・橋下徹大阪府知事)
「目先の政策だけが論じられる政府では、日本は沈没する」(日本創新党・中田宏前横浜市長のツイッター)
「今の鳩山内閣を放っておいたら日本は確実に沈没する」(自民党の舛添要一前厚労大臣)
沈没。まずい。小松左京もびっくりだ。これだけ揃って同じ表現を使うということは、何かしらの根拠があるのだろう。
...と思ったが、東大地震研究所のサイトによると、巨大地震や火山の噴火によって日本が沈没することはあり得ず、仮に映画のような事態が起きたとしても、実際に沈んでしまうまでには100万年かかるらしい。最近の日本は沈むどころか、東と南のプレートに押されてむしろ「盛り上がっている」という。
ひょっとすると経済や外交のことを言っているのかもしれない。だとすれば、具体的に何を指して「沈没」などと物騒な形容をするのだろうか。
国の借金? GDP比190%は確かに先進国で最悪の水準だが、日本の国債は90%以上が国内で消化されており、それですなわち経済全体が破綻するかのごとく言うのは大げさだ。普天間問題? オバマ政権が鳩山内閣にあきれ果て、不信感を募らせているのは間違いないが、世界全体を見渡してみて、国益が決定的に失われかねないほどの外交的な危機には今の日本は1つも直面していない。
少子高齢化もデフレスパイラルも、医師不足も貧困層の拡大も、年金も天下りもキャピタルフライトもそれぞれ大問題だが、そのいずれかが、あるいはどれかとどれかが組み合わさって社会や経済を丸ごと崩落させたりするようなことはない。必要なのは個々の問題に具体的にどう対処し、手をつける順番とコストと投資の優先順位をどうするかの方法論だろう。
その詳細部分をはっきりと語らずに、ことさらに不安をあおる抽象的な言葉でしか新党設立の理由や理念を説明しないのは、衆愚政治をあおるだけだ。事大主義というか、オーバーな言葉で自分たちを奮い立たせなくてはいけないくらい内心は萎えているのか。いずれにしても、施政方針演説で総理大臣が連呼した「いのち」と同じくらい空虚に響く。
沈没するぞと脅されたら、1000兆円を超える個人資産はますます凍りつき、よくなる景気もよくならないだろう。民主党政権の財政金融政策を疑問視するのはよく理解できるが、ならば「社会保障のために消費税率を●%上げます」と腹をくくって宣言する新党がなぜ生まれないのか、不思議で仕方がない。
旗揚げのときくらい、もう少し「希望」を語ればいいのにとも思う。