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「赤シャツ隊」の気になる日当

2010年04月16日(金)00時12分


 ジャカルタに火の手が上がり、スハルト政権が突然倒れていったあの時。マハティールを脅かした副首相アンワルへの弾圧にマレーシアが揺れたあの時。現地の記者から気合の入りまくったストーリーが送られてきたかつてのデモと同じ、歴史が動くかのような熱気が今回はバンコクから......伝わってこない。

 3月半ばから続くタイの反政府デモは、何の落としどころも見えないまま死傷者を出す事態に発展した。が、この2~3日の間にメディア以外の場で耳にした情報には、開発独裁から民主化へ向かう過程で東南アジアの国々で起きたデモのような緊迫感がない。

「バラマキで農民を洗脳して操るタクシン派と、成り上がりのタクシンを許せない既得権益層や都市住民の単なる権力闘争」(タイに駐在した元記者)。「やる気のないデモ隊が道に転がってます」(タイ在住の日本人)。

 生き血を撒いたり、キテレツな空気を漂わせていた「赤シャツ隊」の参加者には、日当が支払われているとの「疑惑」が浮上している。

 デモ隊の後ろ盾となっているタクシン元首相は資産数十億ドルと言われるから、参加者に食事代やビール代をサポートするくらいは自然なことに思える。反タクシン派のネガティブキャンペーンという側面もあるだろうし、それだけで反政府派がすべて「政治的な動機より金目当て」とは言えない。

 ただ、ネットで流布されている情報によれば、日当の額は500バーツ(約1500円)とも2000バーツ(約6000円)とも言われる。都市部の初任給が1万~3万バーツなので、事実とすればバスで農村部から動員された参加者にとっては馬鹿にならない稼ぎだろう。「参加者に日当を支払っているところ」とされる映像には、確かに札束が映っている。

 90年代までのタイであれば当然のように介入していたであろう軍や国王が沈黙を保っているのは民主化の表れなのか、あるいは別な駆け引きが進んでいるのか。いずれにしても長引けば長引くほど、輸出の改善で回復の兆しが見えていたタイ経済にじわじわとダメージを与えることは間違いない。


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竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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