最新記事

アメリカ経済

米国でも子育て支援の充実が大統領選の論点に

2016年9月14日(水)16時31分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

omgimages-iStock.

 9月13日、米国で共和党のトランプ氏が、子育て支援策を発表した。米国の大統領選挙では、トランプ氏と民主党のクリントン氏が、子育て支援の充実を競っている状況だ。少子化対策の必要性が叫ばれて久しい日本と違い、先進国としては堅調に人口が増加している米国だが、子育て支援の重要性に対する意識は高い。

税制改革で子育て支援

「育児費用を削減する提案を行い、米国の家族が何よりも必要としている支援を提供する(トランプ氏)」

「すべての米国人が手ごろな保育サービスを利用できるようにして、育児費用を所得の10%に抑え込む(クリントン氏)」

 民主党のクリントン氏と共和党のトランプ氏が、それぞれ8月に行った演説からの引用だ。大統領選挙といえば、相反する提案で論戦を戦わせるのが普通だが、こと子育て支援に関しては、その充実を目指す方向性はどちらも同じ。二人が演説を行った場所も、同じ中西部のミシガン州と、まさに両者が競い合っている状況だ。

【参考記事】米国の中間層にかすかな希望

 かねてから民主党は、子育て支援の充実を提唱してきた。現職のバラク・オバマ大統領は、育児費用を対象とした税額控除(後述)を3倍にするよう提案している。クリントン氏は、具体的な方策こそ明らかにしていないものの、やはり税額控除の充実等を通じて、家計の育児費用負担を抑え込む方針を示している。

 意外感があったのは、トランプ氏の提案だろう。8月の演説の後、9月13日には、支援策の内容が明らかにされた。

 トランプ氏の提案の中心は、子育て費用を所得控除(後述)の対象にすることである。共和党の税制といえば、最高税率の引き下げや税制の簡素化が主流であり、子育て支援のような特定の目的を持った政策減税は傍流だった。

【参考記事】守ってもらいたい人々の反乱──Brexitからトランプへ

 トランプ氏が子育て支援策を打ち出した背景には、長女のイヴァンカ・トランプ氏の存在があるようだ。実際にイヴァンカ氏は、7月に行われた共和党全国党大会での演説で、「3人の小さな子供をもつ親として、働きながら子育てをすることの難しさは十分に分かっている」と述べ、父のトランプ氏が育児支援の充実に取り組むことを予告していた。具体案を明らかにした9月13日の演説では、トランプ氏も「おとうさん、やらなきゃダメよ」とイヴァンカ氏に説得された様子に言及している。何かと批判の多いトランプ氏の印象を和らげると同時に、支持が伸び悩む女性票を取り込む狙いもありそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相が対面で初会談、「相違点の管理」で合意 協

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中