何より安定を望む住民
英インディペンデント紙によれば、ISISは軍事部門と民生部門を分け、ワリス(閣僚に相当)を指名して統治を指揮させているという。制圧した地域は複数の「県」に分割し、それぞれの責任者の管轄下に置いている。支配地域内の経済を監督する「ムスリム金融館」と称する中央銀行も設立し、独自通貨を発行する計画もある。
どうやらISISは、無政府状態に陥ったシリアとイラクから奪い取った地域で、それなりに機能的な国家を建設しつつあるらしい。長らく流血の宗派間抗争に耐えてきた現地の人々は、何よりも安定を欲している。だから「ISISが一定の統治能力を示すことができれば、勝利は彼らのものだ」と、アトランは言う。
ISISが残虐なのは事実だが、そこにも一定の「節度」はあるらしい。平気で公開処刑をするような体制が住民に愛されるとは思えないが、いくら苛酷でも法律が守られ、生活に一定の安定が得られるならば、たいていの人は無政府状態より好ましいと考えるのだろう。
頑迷なイデオロギーの持ち主ではあるが、国造りに関する限り、ISISはかなり現実的な路線を進めている。民生部門の要職の多くは、イラクのフセイン政権時代の官僚たちが占めている。ラッカで電気通信部門を仕切っているのは、博士号を持つチュニジア人。小麦粉の生産と流通を仕切るのはアサド政権の元役人だ。
ただし、すべての人々がISISを積極的に支持しているわけではない。現地の活動家グループ「ラッカは静かに殺戮されている」を率いるアブ・イブラヒム・ラカウィによると、実際には「持てる者」と「持たざる者」の格差が拡大している。それなりに恵まれているのはISISのメンバーだけで、それ以外の人々の暮らしは苦しい。「貧困と病気が蔓延している。空爆で市内の物価は高騰した。電力は供給されず、皆が発電機に頼っている」と、ラカウィは英オブザーバー紙に語った。