チベットは欧米人だけでなく、都市部に住む中国人エリートにとっても魅力的な場所だ。漢民族とチベット人の緊張増大をものともせず、国内外から大勢の観光客がチベットに詰め掛ける。「蔵漂(チベットヒッピー)」と呼ばれる若者が精神性を求めてやって来ることも多い。11〜12年の観光客数は25%増加した。
最近の映画や本では、チベットはエキゾチックな文化と神秘的な美しさが息づく地として描かれる──その筆頭格が300万部を売り上げ、模倣作も相次いだ『蔵地密碼』だ。昨年11月、地元の共産党機関紙チベット日報すら、チベット賛美ブームを次のように批判した。「この手の本の著者はチベットのことに精通しているわけではない。中身はほとんどが噂と臆測に基づいている」
チベットの文化と歴史を集めたといううたい文句とは裏腹に、この本は現在のチベットの政治的現実から目をそらしている。都市が共産党の厳しい監視下に置かれ、僧侶が政権転覆を図ったとして逮捕されているのがチベットの現実だが、本の中のチベットは民族対立の地ではなく、エキゾチックな文化と先人の知恵にあふれた地だ。
金儲けと政治を切り離す
「中国はいわゆる『少数民族』の話を、民族舞踊と異文化ショーのようなステレオタイプで表現しがちだ」と香港大学のデービスは言う。「ドリームワークスはこの点をきちんと理解しないと、中国でしか公開できない映画を作りかねない。僧侶の焼身自殺が続くなか、『幸せな先住民族』というメッセージはなかなか受け入れられない」
もちろん中国市場参入のリスクを引き受けているのはドリームワークスだけではない。米映画各社はとっくに中国の検閲・映画当局の気まぐれな要求に応じるようになっている。
日頃は挑発者を自負するクエンティン・タランティーノ監督も『ジャンゴ 繋がれざる者』では大半の性描写や暴力シーンのカットを余儀なくされた。『アイアンマン3』は悪役「マンダリン」が中国を連想させないようなキャラクターに変更され、中国版には中国人外科医がヒーローの命を救うシーンが追加された。ブラッド・ピットの最新作『ワールド・ウォーZ』でも、人類滅亡につながる謎のウイルスが中国から世界に広まったことに触れるせりふがカットされた。
多くのセレブがチベットという大義に情熱を傾けている点は今も変わらない。それでも彼らの映画会社に対する影響力は薄れているのかもしれない。
香港科技大学のバリー・ソートマン准教授は次のように指摘する。「ハリウッドには今もチベット支援に力を入れている人間がいる。例えばリチャード・ギアだ。とはいえ、一部の大手映画会社は中国に映画を売り込むことを常に計算している。だからこそ、批判をされても対応を先送りにしたがる。政治と映画ビジネスの分離が進んでいる、というわけだ」
From GlobalPost.com特約
[2013年7月23日号掲載]
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