ロンドンより面白い!映画で見るオリンピック
The Cinema of the Olympics
世界が夢中になるスポーツの祭典の魅力が詰まった名作ベスト3
何人たりともこの時ばかりは愛国心を刺激され、熱狂せずにはいられない。4年に一度のオリンピックは国民の心を1つに結束させるスポーツの祭典。しかし、だからこそ政治と無関係でいられない面もあり、各国の情勢が競技に影響を及ぼすことも少なくない。
56年のメルボルン五輪で、ハンガリーの選手たちを襲った状況を描いた『君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956』を見ればよく分かる。当時ハンガリーで脱ソ連と自由化を求める市民運動が高まるなか、同大会に出場した水球チームの選手カルチと女子学生ヴィキの翻弄される愛を描いた作品だ。
金メダルのはかり知れない重さ
学生連盟を結成し、自由を求めて活動するヴィキを断腸の想いで祖国に残し、カルチは五輪チームと旅立つ。しかしメルボルンに到着すると、移動中にソ連軍がハンガリーを武力弾圧し、自由への希求は壊滅的に踏みにじられたことを知る。
気力を失う選手たちに対し、監督は「祖国は打ちのめされたが、まだ終わりじゃない。祖国の人々に金メダルを贈るんだ」と訴える。奮い立ったハンガリーチームは連勝を続け、何の因果か準決勝でソ連チームと対戦する。「ハンガリーコール」が会場に沸き起こる中、カルチは得点を重ねていく。重圧と屈辱に耐えられなくなったソ連選手が、ついにカルチの顔面を殴打。ソ連へのブーイングと大歓声に包まれ、ハンガリーは勝利を手にする。その頃、ヴィキは......。
決勝も勝ち取り、金メダルを胸に嗚咽を漏らすカルチの想いは、観る者にも熱い塊を飲みこむような痛みと感動を体感させる。
常夏の国でそり競技に奮闘
一方、1924年のパリ五輪で活躍したイギリスの陸上選手2人を描いた『炎のランナー』は、当時のオリンピックの雰囲気や陸上競技の状況を知る上でも興味深いヒューマンドラマだ。主人公2人の走る動機はそれぞれ違う。ハロルドはユダヤ人に対する偏見や差別をはねのけるため、元ラグビー選手で宣教師のエリックは神のためにひた走る。
金メダルを獲ることの意味や、その勝利が彼らの人生に何をもたらすのか深く考えさせられる。同時に、ほんの十数秒のレースを駆け抜ける臨場感や、ゴールを切る快感を存分に味わえる。
もっと楽しくオリンピックを味わいたい、という人におススメなのは『クール・ランニング』。雪など降らない常夏のジャマイカで無謀にもボブスレー(氷の張ったコースを滑走するそり競技)のチームを組み、88年カルガリー冬季五輪に参戦した選手たちの奮闘ぶりは、掛け値なしに面白い。実話を基にしたものだが、この映画をきっかけにボブスレーという競技自体を知った人も多かった。