太平洋戦争中に日本が占領していた地域には、戦後67年がたった現在でも支配の跡が数多く残されている。なかでも、写真家の下道基行が注目したのは「鳥居」だ。
大日本帝国による同化政策や、移住した日本人の心のよりどころとして占領地や植民地に建立された神社は、一説によれば約1600社以上。一部は終戦後に各地の政府や市民によって取り壊されたが、現在でもミクロネシアに点在するアメリカ領の島々やロシアが支配するサハリン、台湾や中国本土などで見ることができる。
存在を忘れ去られたまま、人里離れた場所に放置された鳥居がある一方で、現在でも建てられた場所にそのまま残され、市民の暮らしの中に自然に溶け込んでいるものもある。だが残された鳥居の多くは、既に本来の神道的な意味合いを離れ、それぞれの場所で異なる使われ方をしている。
各地に残る鳥居は、日本による占領時代が確かに存在したことを示している。そして、それが遠い昔のことになったということも。「当時を知る人が減るにつれ、こうした遺跡が語り部の役割を果たそうとしている」と下道は言う。
Photographs by Motoyuki Shitamichi, Courtesy of nap gallery
<2012年11月7日号掲載>
展覧会:
本作「torii」シリーズを含むグループ展「MOTアニュアル2012 風が吹けば桶屋が儲かる」が東京都現代美術館で2013年2月3日まで開催中 *上のスライドショーには展示のない写真も含まれています