「いつの時代の写真ですか?」と問われるという。写真家の木村肇は2007年から5年間、新潟に点在するマタギの集落を訪ねて、雪深い里に営まれる半農半猟の生活を「谺 KODAMA」(窓社刊)にまとめた。厳しい自然と共存する人々の姿は、過去へとタイムスリップしたかのようだ。
山の結界を守る獣たちの咆哮がこだましていた。東京郊外の街で生まれ育った木村は「完全に別の世界だった」と振り返る。山麓に銃声がとどろき、男たちは仕留めた獲物の皮を剥ぐ。野を駆けていたまだ温かい動物たちは食肉へと姿を変え、人間の胃袋を満たす。「自分の存在が森羅万象とつながっていることを強く感じるようになった」と木村は語る。
里の結界は破られ、人の流出は止まらない。長きに渡り脈々と受け継がれた山村生活の文化もまた、均一化に突き進む社会の波にのまれる。年を追うごとに灯火を失っていく集落は、降りしきる雪の向こうへと消えていく。木村が紡ぐ白と黒の物語は、薄れゆく記憶を私たちの心に刻む。
Photographs from "KODAMA" (Mado-sha) by Hajime Kimura
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写真集「谺 KODAMA」---窓社
編集部ーー片岡英子