夜空を見上げる。まだ自分の出番ではなさそうだ。被写体と一緒にテレビでサッカー観戦をして過ごし、満月がようやく待ち望んだ構図の位置に到達したその時、写真家アレハンドロ・チャスキエルベルグは大判カメラのシャッターを静かに押した。「The Paraguayans (パラグアイ人)」は、月明かりを背にした男性をフラッシュライトなどで照らし、数分の露光時間を経て撮影された作品だ。
南米パラナ川のデルタ地帯にある小さな島々で暮らす人たちのコミュニティーを4年にわたって撮った「High Tide(満潮)」シリーズは、写真家マーティン・パーらに見出され、アートであると同時にドキュメンタリーとして格別の価値があると評された。東京・浜松町のGallery 916では、チャスキエルベルグがケニア北西部のトゥルカナ地方で国際協力団体オックスファムと行動を共にし、干ばつと食糧難に苦しむ人々を同様の手法を含めて撮影した作品群「Turkana(トゥルカナ)」を織り交ぜた「アレハンドロ・チャスキエルベルグ写真展」を開催している(11月10日まで)。
写真の優美さが、被写体を取り巻く現実の過酷さを薄めてしまうのではないかとの危惧も指摘される。しかし「Turkana」シリーズについてチャスキエルベルグは、今年1月英BBC放送とのインタビューの中で「痛ましい現場を美しく描くとドキュメンタリー的な価値や意味を損なうと言われるけれど、そうした古い考えを払しょくしたかった」と語っている。革新的スタイルを貫く彼の挑戦は成功したかーー展示作品の前に立ち、じっくりと考えたくなる。
関連リンク
アレハンドロ・チャスキエルベルグ写真展
(詳しい日程はGalley 916のサイトでご確認ください)
Alejandro Chaskielberg Photography
ーー編集部・片岡英子