これまで、身体障害者について実に多くの「物語」が語られてきた。しかしそのほとんどは健常者の視点で語られる悲劇や、勇敢さをたたえるストーリーだ。その中で、障害者は健常者と別の世界に生きる「彼ら」として登場する。本来の人間としての姿は見えてこない。
多発性硬化症を患うパトリシア・レイドーシーはこうした線引きをなくすため、障害者の日常生活を線の内側から伝えようと決意。そして、障害者である自分自身をモデルにした作品集『フォーリング・イントゥー・プレイス(あるべき場所に落ち着く)』を発表した。
46歳まで健常者として生活していたレイドーシーは、外側と内側の両方の視点を持ち合わせている。撮る側としては被写体の「異質な点」はむしろ興味深く思えるのに、それが自分となると見せるのが嫌になる。自分の身体がまるで「他人」のようだったと、彼女は言う。
だが自分にカメラを向けた途端、隠れる場所がなくなった。恥ずかしいと思う部分をさらけ出したことで、ありのままの自分を理解できたとレイドーシーは言う。「見方を変えるべきなのは自分自身だった。私の身体は闘士であり、味方であり、親友だったのだ」
Photographs by Patricia Lay-Dorsey
<2012年8月1日号掲載>
新刊写真集「FALLING INTO PLACE」
アメリカのメディアを中心に注目を集め、レイードーシー(72)と英エフフォトギャラリーが共同で資金を募り、2013年12月に写真集として発表された。