迷走が続く普天間問題で、再び注目を浴びている在日米軍。鳩山政権が発足して以来、沖縄の住民は駐留米軍の規模が縮小される期待に賭けてきた。沖縄本島には現在、37の米軍施設があり、約5万人の米兵と家族が生活している。しかし、米軍機の墜落事故の不安や、米兵による度重なる犯罪でそのイメージは決して良いとはいえない。72年の沖縄返還の後だけでも、米兵がらみの刑事事件は5300件を超える。
こうした議論をよそに、沖縄の米兵たちの素顔と本音はほとんど知られていない。95年の海兵隊員による少女暴行事件に始まり、04年の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故にいたるまで、日本の報道は在日米軍を巨大な怪物のように描いてきた。事件を起こした兵士に厳しい批判が浴びせられるのは当然だが、それ以外の大多数の兵士は光を当てられることもなく、単に「米兵」とひとくくりにされてきた。
政治家や学者と同じ視点から見るだけでは、在日米軍の本当の姿はわからない。本誌は05年3月から同年夏まで数回にわたり、沖縄の海兵隊部隊と空軍の戦闘機パイロットに密着した。海兵隊員と共にキャンプ・シュワブの訓練場で野営し、F15戦闘機の訓練に同乗し、勤務時間外の日常をつぶさに観察した。
現在の普天間問題で鳩山政権が挙げている移設先候補のキャンプ・シュワブでは、在沖海兵隊による実弾射撃訓練や爆破訓練が日常的に行われている。記者が05年当時に海兵隊の野営訓練を取材した印象からすると、実戦さながらの訓練が行われているこの基地に滑走路を造って普天間のヘリ部隊を移設するのは無理に思える。基地内が勾配の激しい丘陵地帯にあるだけでなく、在沖海兵隊の戦闘能力維持に必要な長距離射撃や爆破訓練との整合性の問題があるからだ。
ねじれにねじれた普天間問題に、鳩山政権はどんな結論を出すのか。
2005年7月27日号掲載
Photographs by Peter Blakely-Redux