ロンドンの街を歩いていると、ひっそりと喪に服している一角を目にすることがよくある。たむけられた花束がしおれていたり、少し色あせたメッセージカードや家族写真が置かれたままになっていたり......。誰かがある日突然、命を奪われた場所だ。ロンドンで2011〜12年の2年間に起きた殺人事件は210件に上る。フォトジャーナリストのアントニオ・ザスエタ・オルモスは、そうした犯罪現場すべてに足を運んで撮影し、1冊の写真集『殺人の風景』にまとめた。
ほとんどの殺人事件が、ニュースとして取り上げられ注目を集めるのは一瞬だけだ。現場検証が済んで警察が立ち入り禁止のテープを外すと、その場所は元の風景に戻る。どこからともなく一輪の花がそっと供えられたり、家族や友人たちが集まって被害者の死を悼んだりと、悲劇の傷痕は残るかもしれない。だが時がたつにつれ、事件は人々の記憶のかなたに押しやられていく。
オルモスは風化していく殺人現場の記憶を写真で残そうとした。彼はすべての現場を事件発生から数日内に訪れて、カメラに収めた。暴力で彩られた「もう一つの風景」を記録しておくために。
Photographs from "The Landscape of Murder" (Dewi Lewis Publishing) by Antonio Zazueta Olmos
<2013年12月3日号掲載>
関連リンク:
写真集「殺人の風景」(The Landscape of Murder)英デウィ・ルイス出版刊