写真家のクリストファー・アンダーソンはこれまで輝かしいキャリアを築いてきた。
写真家集団マグナムの一員として、著名人のポートレートからボートで亡命を図るハイチ難民、さらに戦地のイラクやアフガニスタン、紛争地のパレスチナやレバノンに暮らす人々の感情を写真で表現してきた。
紛争地を駆け巡る写真家として数々の報道写真賞を獲得してきた彼だが、08年に息子アトラスが誕生してすべてが変わった。くしくも同時期に父親のリンが癌になり、紛争写真から距離を置いて目の前の生と死に向き合った。「これまで見知らぬ人の経験を撮影するために遠方に旅をしてきたが」と、アンダーソンは言う。「私のこれまでの写真は、自分のものではない感情と私をつなぐものだった」
そう悟ったアンダーソンは、「息子」アトラスの父親として、また闘病中であるリンの「息子」として、彼らの姿を切り取った。そしてこれまでの写真家生活が、今回の写真を撮るための準備にすぎなかったと気付く。写真が自らの感情を伝える媒体になったのだ。こうして撮影された作品が、写真集『Son』にまとめられた。
Photographs from "Son" (Kehrer Verlag) by Christopher Anderson/Magnum Photos Tokyo
<2013年10月22日号掲載>
関連リンク:
「Son」(独ケーラー出版)