五輪などの国際スポーツ大会で、台湾は「チャイニーズ・タイペイ」を名乗り、国旗ではなく、梅をモチーフにした専用の旗を使う。
いったい誰が正統な「中国政府」なのかという「一つの中国」問題をめぐり、中国(中華人民共和国)と台湾(中華民国)との間で繰り広げられた外交戦の末に考え出された台湾への救済措置である。
「チャイニーズ・タイペイ」という奇妙な名称の由来は、1979年に名古屋で開催されたIOCの理事会で、中国代表を「中華人民共和国」とし、台湾を「チャイニーズ・タイペイ」と呼ぶ決議が採択されたときに始まる。
台湾は当初決議を拒否したが、その後受け入れ、中国と台湾との話し合いで「チャイニーズ・タイペイ」の中国語訳は「中華台北」になった。
中華台北には「中華」という国名の一部も入って台湾のメンツが少しは立つ。以後、およそ40年間にわたって使われてきた。その呼称が再び脚光を集めたのが先の東京五輪の開会式だった。
当然、台湾代表団は、「チャイニーズ・タイペイ」という名称で参加している。しかし、NHKの生中継で、和久田麻由子アナウンサーがこう紹介した。
「台湾チームの入場です!」
この一言に、NHKの海外放送をみていた台湾の人々の間から歓喜の声が上がった。なぜなら、「チャイニーズ・タイペイ」という彼らにとっては親しみを感じにくい名称で呼ばれるよりも「台湾」のほうがずっと喜ばしいからだ。
しかし、ここで強調しておきたいのは、台湾の国名は中華民国で、通称名が台湾である、という事実である。
台湾リーダーの蔡英文は「台湾総統」とメディアでは当然のように記載されるが、正式名称は「第15代中華民国」総統である。初代総統の蔣介石以来、蔣経国、李登輝、陳水扁、馬英九と引き継がれてきた中華民国体制は台湾でなお生きている。
ただ、その「中華」を冠した国名は飾りに近い存在でもある。国際大会で、国家としては代表チームが「中華民国チーム」と呼ばれることがベストであろう。
ただ、台湾の人々はむしろNHKの放送のように「台湾チーム」と呼ばれるほうがしっくりくるところが、またややこしい。
中国とは何か、中華とは何か。
私たち日本にとっても極めて重要なテーマである。そのことを思考するにあたり、台湾は限りなく多くのヒントを与えてくれる。
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