医師に必要な資質を見極めるためのチャレンジ
倉敷中央病院が今回のトライアウトを実施した理由は何だろうか。可能性として挙げられるのは地方病院における医師不足である。2004年から新臨床研修制度がスタートし、これまで主に出身大学の附属病院で研修を受けていた研修医が、研修先を自由に選べるようになり、研修医が都市部の病院に集中。加えて、大学病院などの特定の病院だけでなく、一般の民間病院でも研修が可能になった。その結果、地方での医師不足を招いたといわれている。しかし、同病院は国内トップレベルの臨床環境を有し、県内では以前から高い人気を誇っている。
倉敷中央病院 救命救急センター長兼教育研修部部長の福岡敏雄医師はこう語る。
「試験の目的は医療現場という命を預かる状況での集中力や判断力、極限状況でも諦めない精神力を試すことでした。最初は手も足も出なかった医学生が、繰り返し挑戦する中でいろいろな工夫をするなどの進化が見えて、短い時間にも自分を向上させていく可能性を感じました」
一般的に研修医の採用試験は書類選考、筆記試験、面接試験で行われるが、同病院は実技試験を加えることで、医師に求められる資質を見極めようという狙いがあったということだ。最近の医学領域では"プロフェッショナリズム教育"が注目されており、これは医師としての行動規範やプロとしての自立性、社会的役割といったものが重視されていることに対応したものだという。ところが、こうした資質は従来の選考方法ではごく一部しか見極めることができない。そのため、今回のトライアウトの実施は医学生の表層的なことだけではなく、本質的なところを見て合否を判断するという、教育機関としての新たな宣言とも受け取れるだろう。
もちろん、風変わりな実技試験は地方の病院へ注目を集めるための、プロモーション的な意味合いも否定できない。しかし、今後の本採用試験にも取り入れられるという実技試験の内容は十分に吟味され、医師に相応しい資質を持った医学生の選考に大いに役立つことになるはずだ。
倉敷中央病院トライアウト 特設WEBサイト
http://www.kchnet.or.jp/recruiting/