芸術には国境がない。しかし、それが芸術家の活動地域と結びつけて語られることはほとんどない。また、「国境がない」芸術は西洋起源の音楽や美術をイメージすることが多く、非西洋の芸術はほとんどの場合、地域性や特殊性を含意している。越境の日常化は境界を無効にする一方で、その存在を顕在化させることもある。そもそも越境とは何か、境界の生起と消失の反復はどのような可能性をもたらすのか。本特集がそれらの問題についての思索を深めるきっかけとなれば幸いである。
目次
【特集】
- ヨーロッパで活動する日本人音楽家長木誠司
- ジャポニスムの還流――フランスの日本人画家にみる異種混交性(ハイブリディティ)三浦 篤
- 美術にみる太平洋戦争の影 佐藤麻衣
- ブラジル日系芸術家の肖像岡野道子
- トランスボーダー化するマツリ根川幸男
- 「デカセギ文学」の現在とその可能性アンジェロ・イシ
- 多人種化する日系アメリカ人作家ウォント盛香織
- 越境とは何か三浦雅士
- 境界を往還する万葉集上野 誠+ピーター・J・マクミラン+張 競
【論考】
- あいまいな日本のマスク――コロナ対策と帝国の名残り住田朋久
- 近代日本における西洋音楽教育の歴史的展開――「音階」「和声」概念の受容過程仲辻真帆
【世界の思潮】
- ジェンダーとアート中嶋 泉
- 創発的前進としての統合――フォレット理論の現代的意義安藤拓生
- ナショナリズム論の新展開中井 遼
【時評】
- 蛍、きりぎりす、そして蜘蛛まで...高階秀爾
- 建築学の変貌藤森照信
- 大阪城のエレベーターと復元のオーセンティシティ渡辺 裕
- データ報道が拓くニュース体験の可能性荻原和樹
- 人為としての戦争と虚構としての国家小泉 悠
- 減刑嘆願の心理と背景小山俊樹
- 「大衆の反逆」、「無害な大衆」阿川尚之
- 地球温暖化石毛直道
【写真で読む研究レポート】
- 東京におけるエチオピア正教会の祈り川瀬 慈
- 死の面影――デッサン、デスマスク、銅像村島彩加
【連載企画「超えるのではなく辿る、二つの文化」】
- 学際、挑戦から日常へ。安藤妙子+後藤彩子+櫻井悟史+プラダン・ゴウランガ・チャラン+三谷宗一郎+村田 純+宮野公樹
【連載】
- 今みなおす江南史――「瘴癘(しょうれい)」から革命へ岡本隆司
- 昆虫学事始――日本の昆虫研究を支えた人々奥本大三郎
- 平成史――中国の強大化-米中対峙の世界へ五百旗頭 真