CyborgCat-shutterstock
1911年11月11日、東京・浅草の金龍館で1本のフランス製の犯罪映画が公開された。レオン・サジの新聞連載小説を原作とする『ジゴマ』(Zigomar、ヴィクトラン・ジャッセ監督)である。
『ジゴマ』は、フランスの各地で犯罪を重ねる犯罪集団Z組の首領ジゴマとそれを追う探偵とのチェイスを主体とした犯罪活劇であるが、フランス本国はもとより、特に日本で大衆的な人気を博した。
江戸川乱歩や横溝正史といったのちの日本を代表するミステリ作家に多大な影響を与え、またその後のジャンルの読者層の形成にも大きな役割を果たしたことが知られている。
この日本のジゴマ現象を検証した著作に、永嶺重敏『怪盗ジゴマと活動写真の時代』(新潮新書、2006年6月)がある。
同書によれば、輸入当初は興行的な期待値がそれほど高くなかった『ジゴマ』であったが、公開後ほどなくして熱狂を巻き起こした。
各興行会社は『ジゴマ』の続篇や類似の犯罪映画を相次いで輸入する一方で、日本を舞台とした和製ジゴマ映画を製作するなど、同時期には多数の「ジゴマ映画」が氾濫することになる。
その後、これらの映画群は地方巡業を通じて全国に流通し、さらにはそのノベライズ版などの「ジゴマ探偵小説」も複数の著者・出版社から刊行されるなど、『ジゴマ』はメディア横断的な流行現象へと発展していった。
また、こうしたブームの拡大に伴い、子供達の間では「ジゴマごっこ」も流行するが、悪漢の跳梁を描く『ジゴマ』は次第に青少年への悪影響が問題視されるようになり、公開から約1年後の1912年10月20日に上映禁止となってしまう。
同書では、こうした『ジゴマ』の輸入・上映から、多様な亜流作品が生み出されるまでの過程を詳述しているが、注目されるのは、やがて上映禁止へと至る『ジゴマ』を危険視する論調の高まりであろう。
それは、新聞の犯罪報道でのジゴマへの言及の増加からも確認できる。