アステイオン

経済学

日本のコロナ対策は本当に効果があったのか?...経済学で事後検証する

2024年11月22日(金)10時50分
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)

コロナ禍では、世界各国とも、感染拡大直後は医療だけでなく民間の家計や企業にも大きな損害が生じたため、政府が民間を財政的に支援した。その財源は、大半を国債で賄った。だから、世界各国とも政府債務は累増した。

ただ、コロナ禍からの経済再建が早かった国では、コロナ対策のための財政支援を早期に打ち切り、財政収支が改善できて、経済規模に比した政府債務残高(政府債務残高対GDP[国内総生産]比)が改善している。

翻って、日本はどうだったか。感染防止の規制が残ったこともあってコロナ禍からの経済再建は他の先進国より遅れ、コロナ対策のための財政支援は打ち切れず、挙げ句にコロナ対策と称して感染防止に逆行するような需要喚起策のために巨額の財政支出を出し続けた。その財源のほとんどを政府の借金で賄った。

コロナ対策のために、2020年度に予め満期を定めて発行する国債を84兆円追加で発行した。その7割を超える61兆円が1年以下の満期でしか発行できなかった。2年以下の満期の国債まで含めても70兆円と84%を占めた。

2020年度に1年債を発行すれば、2021年度には早くも返済が迫られる。もちろん、2021年度にその大半を借り換えられたが、過半は2年以下の満期でしか借り換えられなかった。2022年度には、2020年度の2年債と2021年度の1年債の返済が求められ、また借り換えた。

このように、コロナ対策のために増発した国債の大半は、2年以下の満期でしか発行できず、満期が10年以上の長期の国債はほとんど追加で発行できなかった。そして、満期が短期の国債は、返してはまた借り換えるという「自転車操業状態」ともいうべき状態に陥った。

その後に襲うインフレにも後押しされて、2020年度以降税収はコロナ禍でも過去最高を更新し続けているにもかかわらずである。

そうした財政難を知ってか知らずか、政治家は桁違いの追加予算でバラマキ財政を続けた。2020年度から2023年度までの国の補正予算では、年平均で35兆円も当初予算に加えて財政支出を増額した。コロナ前は、年平均3兆円だったことをすっかり忘れているようである。財政では「コロナ禍」はまだ終わっていないのだろうか。

本特集における経済学的な視点を通じて、コロナ禍での出来事を読者が振り返る契機になれば、編集委員冥利に尽きるところである。


土居丈朗(Takero Doi)
慶應義塾大学経済学部教授、アステイオン編集委員。1970 年生まれ。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、現職。専門は財政学、経済政策論など。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学(第2版)』 (日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)、『平成の経済政策はどう決められたか』(中央公論新社)などがある。


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 『アステイオン』101号
 公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
 CCCメディアハウス[刊]
 

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イベントのお知らせ

アステイオンvol.101トーク「コロナ禍を経済学で検証する」
今回のアステイオントークでは、コロナ禍で果たした経済学の役割を振り返るとともに、経済学の専門知に対する他分野や世間からの信頼、インターネット社会における専門知の立ち位置について検討します。寄稿者から、医療経済学が専門の伊藤由希子氏、新型コロナ有識者会議のメンバーを務めた大竹文雄氏、読者を代表して科学と社会の関係に詳しい横山広美氏の3名をお迎えし、編集委員の土居丈朗氏の進行で予定調和なしのトークを繰り広げる予定です。

◆日時:2025年1月20日(月)16:00~17:30

◆登壇者 ※五十音順
伊藤由希子氏(津田塾大学教授)
大竹文雄氏(大阪大学特任教授)
土居丈朗氏(慶應義塾大学教授、アステイオン編集委員)※進行
横山広美氏(東京大学教授)

◆配信
Zoomウェビナーでの配信を予定しております(無料)。こちらのフォームより参加登録いただきましたら、配信URLが届きますので、当日ご視聴ください。なお、アーカイブ配信は予定しておりません。

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◆登壇者略歴
伊藤由希子氏(津田塾大学総合政策学部教授)
1978年神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。米国ブラウン大学経済学博士。東京学芸大学准教授を経て、現職。専門は医療経済学、国際経済学。日本各地の地域医療における病院再編問題に取り組む。内閣府規制改革推進会議「健康・医療・介護」WG専門委員・令和臨調「財政・社会保障部会」主査として社会保障改革に取り組む。

大竹文雄氏(大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授)
1961年生まれ。京都大学経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程退学。博士(経済学)。大阪大学社会経済研究所助教授、同大学院経済学研究科などを経て、現職。専門は労働経済学・行動経済学。著書に『日本の不平等――格差社会の幻想と未来』(日本経済新聞社、サントリー学芸賞)、『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』(中公新書)、『あなたを変える行動経済学――よりよい意思決定・行動をめざして』(東京書籍)などがある。2020年~2023年、新型インフルエンザ等対策有識者会議・新型コロナウイルス感染症対策分科会委員をつとめた。

土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部教授、アステイオン編集委員)※進行
1970年生まれ。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、現職。専門は財政学、経済政策論など。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学(第2版)』 (日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)、『平成の経済政策はどう決められたか』(中央公論新社)など。

横山広美氏(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授)
1975年生まれ。東京理科大学大学院理工学研究科満期終了。博士(理学)。東京工業大学特別研究員、総合研究大学院大学上席研究員、東京大学大学院理学系研究科准教授を経て、現職。専門は科学コミュニケーション・科学技術政策。著書に『なぜ理系に女性が少ないのか』(幻冬舎)など。

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