本特集では、こうしたコロナ禍での出来事に焦点を当てて、経済学的にコロナ対策の検証を試みる。
政府のコロナ対策に専門家からの意見を述べる有識者会議のメンバーに加わった大竹文雄(大阪大学特任教授)は、コロナ禍の政策決定に、経済学者がどう関わり、経済学の知見がどう役立てられたかについて論じている。
コロナ対策は、新型コロナの感染防止が最優先されるのだが、それによって失われるものがある。特に、経済的な利益は損なわれがちである。我々は、新型コロナから命が守られただけで生きていけるわけではなく、生計も成り立たせなければならない。
経済学者として、コロナ対策を議論する有識者会議の最前線に立ち、医学等だけでは解決できない経済学が導く解決策を説いた。コロナ対策をめぐる議論では、経済学以外の専門知と経済学の専門知とのトレードオフ(二律背反)にも多々直面した。その現場の緊張感が筆致から伝わってきて迫力がある。
次に、コロナ対策の各論として、経済学の各分野の専門家がコロナ禍を事後検証する。山本勲(慶應義塾大学教授)は、コロナ前から始まっていた働き方の変容が、コロナ禍を経てウェルビーイング(心身の健康・幸福)の格差として顕著に現れた点に注目する。在宅勤務が可能か否かや、AI(人工知能)などの新技術が職場で導入されたか否かなどが格差の要因となっている様が描写されている。
酒井正(法政大学教授)は、雇用調整助成金の新型コロナ特例に焦点を当てる。コロナ禍で、雇調金はどれほど失業率の上昇を抑えたかや、雇調金の給付水準や期間は適正だったかなど、今後の雇用対策に示唆を与える事後検証をしている。
コロナ禍で特例的な措置をしたのはゼロゼロ融資もそうだった。植杉威一郎(一橋大学教授)は、ゼロゼロ融資の功罪に迫る。コロナ禍で、苦境に陥った中小企業の資金繰りを助けた半面、利用した企業の業績を高めるものでなかった点を指摘する。
伊藤由希子(津田塾大学教授)は、コロナ禍での医療の「有事」対応から、「平時」の医療への教訓を導く。発熱外来という一次診療に始まり、コロナ病床と人材の確保、そして入院調整と、平時に体制ができていないと有事はもっと混乱することが検証されており、身につまされる。
コロナ対策として様々に出された財政支援については、会計検査院が既に公式に、布製マスク配付、持続化給付金、病床確保、巨額の予備費などに対して検査のメスを入れている。田中弥生(会計検査院長)との対談を通じて、検査結果が浮き彫りにするコロナ対策の実態を読み解く。
最後に、コロナ禍を経て日本の財政はどうなったかについて触れて締めくくろう。
vol.101
毎年春・秋発行絶賛発売中
絶賛発売中