葛飾、墨田区界隈のエチオピア移民の例をあげるまでもないが、ここ日本においても、欧米ほどではないにせよ、世界の様々な場所、文化にルーツをもつ人々が社会空間を主体的かつ柔軟に読み替え、集い、つながり、困難を抱えながら生きてきた歴史がある。
だがしかし、日本にとってアフリカからやってきた隣人は遠い存在であったことは否めない。東京の一角にある祈り、食を介した、エチオピア人たちのつながりの場。
そこから「日本社会」を逆照射し、相対化し、考えること。そして、ゆっくり時間をかけて、私にとってなじみある異郷と日本社会の橋渡しを、エチオピアに通って得てきた自身の知見や映像人類学の研究手法を活かしながら試みていくことは、重要なチャレンジなのではないかと考えている。
川瀬 慈(Itsushi Kawase)
1977年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。博士(地域研究)。日本学術振興会特別研究員(PD)、日本学術振興会海外特別研究員、国立民族学博物館
学術資源研究開発センター准教授などを経て、現職。著書に『ストリートの精霊たち』(世界思想社)、『エチオピア高原の吟遊詩人──うたに生きる者たち』(音楽之友社、サントリー学芸賞受賞)など。国立民族学博物館の特別展「吟遊詩人の世界」(2024年9月19日~12月10日)の企画および実行委員長を務める。特別展示館でのパフォーマンスにも出演予定。
『アステイオン』99号
特集:境界を往還する芸術家たち
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
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