当然の情報として共有されるニュースの方向性へ誠実な疑問を投げかけ、検証する。そして、少し先の未来で解決されるべき社会課題を提唱する。見過ごされてきた人たちの言葉を見つけ、マスに広める。
それが、いつSNSで石を投げられて死ぬかわからない我々が、筆を......いや、スマホを捨てられない理由である。
最後に、この前提を揺るがす小話をしたい。
少し前に、うつの薬を飲んだことがある。効果はてきめんだった。注意力が身について、仕事をテキパキ進められた。その代わり、知的に誠実でありたいとか、この世の真実を検証したいといった意欲がまったくなくなってしまった。
私にとってジャーナリスティックな態度とは知的な衝動性を必要とするもので、うつの治療薬がそれを奪ってしまったのだ。
当時は仕事を続けるために薬を捨てたが、もしかすると、ジャーナリズム的な精神を持つこと自体が、今後は病理となり、治療対象になるのかもしれない。そうなれば、ここに連ねたジャーナリズムのありようはプレッジ(宣誓)でもなんでもなく、ただの闘病日記となる。
ただひたすらプラグマチックに成長した社会において、たしかにジャーナリズムは病理そのものだ。私はペシミストでいるのが好きなものだから、それくらい破滅的な未来予想図を、ジャーナリズムにも抱いておくとしよう。
トイアンナ(Anna Toi)
1987年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系企業にてマーケティングに携わり、フリーライターに転身。専門は就活対策、キャリア、婚活、マーケティングなど。著書に『改訂版 確実内定』(KADOKAWA)、『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)、『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)など多数。
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