シリコンバレーはさらに醜悪だ。7万6000人の億万長者が住む一方で、住民の30%が公的・私的経済援助に頼っている。
創業者らのエリート層の下にいる高いスキルを持つ専門職は高給を得ているが、税金・物価が高いため生活は中流。その下にいる膨大な数のギグワーカーが「農奴」のような立場で、底辺にはホームレスや薬物中毒者がたむろする。「高度に階層化され、社会的流動性の乏しい」社会ができあがっているという。
コトキンは、カリフォルニア、特にシリコンバレーやサンフランシスコに見られる高度に階層化された格差社会を「封建制」への後退とみたが、これを少数の管理者(テクノクラート)が支配する「インサイダーとアウトサイダーに分かれた社会」であると見るのは、マイケル・リンド『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』(同)である。
左右対立を越えた視点を持つ論客として注目されてきたリンドは、戦前アメリカの代表的トロツキスト、ジェームズ・バーナム(1905―1987)の代表的著作The Managerial Revolution (1940)を援用して、今日の状況を考えている(同書は1960年代に邦訳される際「経営者革命」と題されたが、議論の対象となるmanagersは経営者よりずっと広い概念である)。
バーナムは、ブルジョワ革命の後に来るのはプロレタリアート革命ではなく、資本家に代わって生産手段を管理するmanagers、すなわち企業テクノクラートや官僚テクノクラートによる支配の時代だと見た。その下で一般市民は徹底的に管理・搾取され、民主主義は形骸化すると考えた。まさに今日の世界の姿かもしれない。
バーナムを援用するリンドやコトキンを通して現代アメリカ、特にトランプ(そしてサンダース)登場の背景を考えると、いま起きていることは左右の分断ではなく、上下の分断に起因することが見えてくるはずだ。
トランプ現象とは、エリートに支配された社会を転覆しようとする、虐げられてきた者たちによる、言葉の意味や常識も変えてしまうほどの「革命」的事態なのかもしれない。
会田弘継(Hirotsugu Aida)
共同通信社ワシントン支局長、論説委員長を経て、青山学院教授、関西大学客員教授などを歴任。著書に『破綻するアメリカ』(岩波現代全書)、『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫)、『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)など。訳書にフランシス・フクヤマ『政治の起源』(講談社)、ラッセル・カーク『保守主義の精神』(中公選書)など。7月に『それでもなぜ、トランプは支持されるのか:アメリカ地殻変動の思想史』(東洋経済新報社)を刊行予定。
『新しい封建制がやってくる:グローバル中流階級への警告』
ジョエル・コトキン[著]
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『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』
マイケル・リンド[著]
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