アステイオン

人類学

自分が生み出す「抜けた体毛、排泄物、垢、体臭...」を記し続けてわかったこと

2024年05月01日(水)11時05分
酒井朋子(京都大学人文科学研究所准教授)

医療人類学者アネマリー・モルは、「食べる」営みをめぐって身体の内外で起きている事象を微細に分析した著作のなかで、こうした考え方がくつがえる可能性を示唆する(Eating in Theory, Duke University Press, 2021)。

そして、生きる身体の維持にかかわる作業のほとんどは、よごれや乱れを生み出しながら、それらに対処していく営みなのである。

汚穢とは、通常の分類からはみ出た例外的なもののことである──。不浄についての人類学の古典、『汚穢と禁忌』(ちくま学芸文庫、2009年)において、かつてメアリ・ダグラスはそう書いた。しかし例外的なのは、実はきれいに分類可能なものごとのほうではないのか。

汚穢とは、様々なものが境界をはみ出し混じり合う、生命力と危険に満ちた場である。そのただなかで、自分と他者とが生き続けることができる状況をかろうじて保とうとする。人の日常の営みとは、おそらくそのようなものなのである。


酒井朋子(Tomoko Sakai)
京都大学人文科学研究所准教授。Ph.D(ブリストル大学)。「危機のなかにある日常」をテーマに、紛争や災害、公害にかかわる人類学研究を行なう。主なフィールドはアイルランド、イギリス、福島県東部。主な著作に『紛争という日常──北アイルランドの記憶と語りの民族誌』(人文書院、2015年)、『汚穢のリズム──きたなさ・おぞましさの生活考』(左右社、2024年、共編著)。


※本書は2021年度 サントリー文化財団研究助成「学問の未来を拓く」の成果書籍です。

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汚穢のリズム──きたなさ・おぞましさの生活考
酒井朋子/中村沙絵/奥田太郎/福永真弓/オスカー・レン/古田徹也/原口剛/比嘉理麻/市原佐都子/斎藤喬/藤原辰史/井上菜都子[著]
左右社[刊]


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