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サントリー学芸賞という栄誉ある賞を賜り、深く感謝いたします。
本書は、朝鮮王朝の建国から韓国/北朝鮮の分断に至るまでの約600年にわたる朝鮮半島の歴史を、政争と外患をキーワードに叙述しました。
朝鮮王朝は建国当初に王族の間で王位をめぐる争いが続き、それに勝ち残って即位した国王が支配基盤を固めて絶大な王権を確立しました。しかし、それも長くは続かず、今度は官僚たちが派閥に分かれて権力争いに没頭するようになります。
不寛容な政争は国政の足を引っ張り、16世紀末の日本の侵攻に的確に対処できず、17世紀に入ると清に軍事占領されて属国となりました。18世紀に強圧的に党争を抑えたことが19世紀に外戚の専横を許し、政治腐敗で民乱が頻発して王朝は坂道を転げるように衰退していきます。
周辺国を後ろ盾とする派閥が血で血を洗う政争を展開して社会はますます混乱し、清からようやく独立して誕生した大韓帝国は、1905年に日本の保護国となって5年後に併合されました。戦後は米ソの軍政下に置かれ、そこでも新国家建設の主導権をめぐって激しい政争が繰り広げられました。
このように朝鮮半島では政争による社会の混乱が外患を呼び込むということを繰り返したため、独立を維持することが容易ではありませんでした。
主体的に事大外交をとっていた明の冊封時代のとらえ方は難しいですが、少なくとも名実ともに独立していた期間は1895年(もしくは1897年)から1905年に限られます。
しかし、現在韓国で朝鮮王朝が清の属国だったという事実を受け容れている人はほとんどいません。それゆえ、下関条約の締結直後に独立協会が清からの独立を可視化するために建てた独立門は、いまや日本からの独立を象徴する建造物となっています。
本書は朝鮮王朝が清の属国だったという事実を有耶無耶にすることなく歴史を叙述しました。そうすることで、韓国/北朝鮮の樹立が単に分断を意味するだけでなく、それまでなかなか手に入れられなかった独立を獲得できた瞬間ととらえることができ、70年以上にわたって独立を維持している現状がむしろ異例であることに気づくからです。
そしてそこから、何が朝鮮半島の独立を左右してきたのかを問い、本書はその大きな要因として周辺国のパワーバランスをあげました。
こうした歴史叙述は主流の枠組みから逸脱しているかもしれません。しかし、各国の思惑がぶつかり合う緩衝地帯として朝鮮半島をとらえ、その歴史を叙述することは、世界の趨勢を理解する助けになると考えています。
新城道彦(Michihiko Shinjoh)
1978年生まれ。九州大学大学院比較社会文化学府国際社会文化専攻博士後期課程単位取得満期退学。博士(比較社会文化)。新潟大学大学院現代社会文化研究科助教などを経て、現在、フェリス女学院大学国際交流学部教授。著書『朝鮮王公族』(中央公論新社)など。
岡本隆司氏(京都府立大学教授)による選評はこちら
『朝鮮半島の歴史──政争と外患の六百年』
新城道彦[著]
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