極端な例を挙げるなら、本当に自分の体をサイボーグ化した人もいる。難病ALSで余命2年の診断を受けたピーター・スコット-モーガンさんは、特殊な手術を受けて身体をサイボーグ化した。
さらに気管切開手術を受け、発する言葉はAIに、表情はアバターに託すことを決断し、自分のことをヒューマン・サイボーグと呼んだ。
スコットさんは、肉体を動かせなくても最後まで自分の意思を発信し、自分らしく生きたい、そして未来の難病患者の希望になりたいと話し、メディアにもたびたび取り上げられた。
その実験の過程は、自伝『ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』という本にも詳しいので、興味がある人はぜひ読んでほしい。
しかし、一方で『サイボーグになる』という本は、最新テクノロジーで障害を「乗りこえる」「克服する」ことをそこまで礼賛しない。むしろ、それを唯一の解決策としてしまう「テクノエイブリズム」を批判する。
たとえば、いま克服することが難しい障害を解決する技術革新ばかりが熱く注目されることについて、チョヨプさんはこう書いている。
チョヨプさん自身も、補聴器だけでは聞こえない音や入ってこない情報が多くあり、他の音声字幕変換技術によってその不足を補ってきたという体験がある。
だから、テクノロジーがいずれ一発逆転劇で全てを解決し、劇的な治癒や回復を行う日がくる、そして人類は歩けない人でもモビルスーツを着て自由に歩く、そういう未来の夢や約束を信じれば信じるほど、実はいまちょっとした工夫で超えられるはずのバリアをなくす努力が損なわれてしまうかもしれないと警鐘を鳴らす。
チョヨプさんはさらにこうも書いている。
本は、「非正常」を「正常」に近づけることだけが、解決策でもなければ、良いことでもないのではないか、と問う。モビルスーツを着るのではなく、その人がその人の肉体のままで生活することをサポートする技術は、すでにそこにあるのだ。
スロープや点字ブロック、エレベーターや音声案内、歩行ガイド、手話。一見すると地味でローテクなものこそ、多くの人がその恩恵を受けられる可能性も大きい。
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