アステイオン

座談会

梅棹忠夫と下河辺淳とともに「遊びのある地域文化」を探し出した...サントリー地域文化賞選考委員座談会(上)

2023年09月20日(水)10時40分
佐々木幹郎+田中優子+藤森照信+御厨貴(構成:置塩文)

「日本ではどうして湿地帯にしか都市ができないのかね」

佐々木 下河辺先生は、かつては国土事務次官で、田中角栄の『日本列島改造論』の原型をつくった人ですよね。その大きな枠組みの発想に「へえ」と思うことはたくさんありました。

どこかのまちの地域文化が候補になると、そのまちの話とは関係なしに「しかし、日本ではどうして湿地帯にしか都市はできないのかね」と突然おっしゃる。

別のまちについて「持続可能か」ということが話題になれば、「道路をこういうふうに通せばいくらでも持続可能になる」と。一貫してボンと押さえてくるつかみ方が、強く印象に残っています。

田中 下河辺さんは、いろんなところに行って開発の交渉をされるわけですよね。場所は忘れましたが、北陸のほうでの話だったと思います。

あるとき宿に帰ったら、知らない男がやってきて牛の生首をテーブルの上にドンと置き、すごみを利かせて何かを言ったそうです。土地のやくざの人らしいですけど。そういう交渉の仕方をするんだという話でした。

それを聞いて、地域を担っていくってこういうことなんだ、私たちには見えないところがあるんだなと思いましたね。

※第2回:東京には本当に「地域」がないのか?...サントリー地域文化賞選考委員座談会(中)に続く

[注]
(1)2004年 東京都武蔵野市 武蔵野中央公園 紙飛行機を飛ばす会連合会│広大な原っぱのある公園に愛好家が集い、紙飛行機を通じたコミュニティを形成


御厨貴(Takashi Mikuriya)
1951年生まれ。東京大学先端科学技術研究センターフェロー、東京大学名誉教授。東京大学法学部卒業。専門は近代日本政治史、オーラル・ヒストリー。東京大学先端科学技術研究センター教授などを歴任。「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」座長代理。TBS『時事放談』司会者でもあった。著書に『平成風雲録』(文藝春秋)、編著に『天皇退位何が論じられたのか──おことばから大嘗祭まで』(中公選書)、『舞台をまわす、舞台がまわる──山崎正和オーラルヒストリー』(中央公論新社)、『天皇の近代』(千倉書房)など多数。2018年紫綬褒章受章。

田中優子(Yuko Tanaka)
1952年生まれ。法政大学名誉教授。法政大学文学部日本文学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。法政大学社会学部教授、社会学部長などを経て法政大学総長、2021年退任。専門は日本近世文学、江戸文化、アジア比較文化。2005年紫綬褒章受章。著書に『江戸の想像力』(ちくま学芸文庫)、『江戸百夢──近世図像学の楽しみ』(ちくま文庫、サントリー学芸賞)、『遊廓と日本人』(講談社現代新書)など多数。

藤森照信(Terunobu Fujimori)
1946年生まれ。東京大学名誉教授。東京大学建築学専攻博士課程修了。東京大学生産技術研究所教授、工学院大学建築学部教授等を歴任。専門は建築史学。著書に『建築探偵の冒険・東京篇』(筑摩書房、サントリー学芸賞)、『タンポポ・ハウスのできるまで』(朝日新聞社)、『天下無双の建築学入門』(筑摩書房)、『歴史遺産 日本の洋館』(講談社)など多数。

佐々木幹郎(Mikiro Sasaki)
1947年生まれ。詩人。東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文芸非常勤講師を務める。『蜂蜜採り』(書肆山田、高見順賞)、『明日』(思潮社、萩原朔太郎賞)、『鏡の上を走りながら』(思潮社、大岡信賞)、『中原中也』(筑摩書房、サントリー学芸賞)、『アジア海道紀行──海は都市である』(みすず書房、読売文学賞)など著書多数。



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 『アステイオン』98号

  特集:中華の拡散、中華の深化──「中国の夢」の歴史的展望
  公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
  CCCメディアハウス[刊]


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