空気を意味するNiweは、呼吸を介して体内に吸収されるとエネルギーに変化すると考えられている。
「ほぼすべてのシピボが、Niweを信じています」。オナヤへの怒りをあらわにしていた青年は、Niweの性質をつづけてこのように語る。
「もしあなたが悪い精霊が吐いたNiweを吸い込むと、強いNiweで浄化する必要がある。さもないと、あなたは吸った瞬間に死ぬこともあるし、一生病気のままということもあるんです」
オナヤたちは、ディエタすることによって、プラント・マエストロの精霊たちと意思疎通を図り、彼らが持つ「強いNiwe」を身体化する。
つまり、ディエタして摂取するプラント・マエストロの精霊たちとNiwe的に同族となることで、オナヤたちの吐く息は、ただの空気ではなくプラント・マエストロのNiweに錬金化される。
ディエタによって獲得された強いNiweは、アヤワスカの治療儀礼においてイカロと呼ばれる治療歌として具現化されることで、患者が吸い込んだ悪いNiweを吹き飛ばす──つまり治癒がおこると信じられてきた。
「熟練のオナヤは、特定のプラント・マエストロの精霊と結婚します。そうすることで関係性が深まり、より強力なNiweを獲得することができるからです。私にも、あるプラント・マエストロの国に旦那がいるんですよ」
マリアは、驚く私をみながら嬉しそうに笑った。
ムラヤの先父を思い出しながら、彼女は続けてこう語る。
「家族を養う必要があるので、森に1人で3年籠るなんて、もう無理です。それに今はコロナで外国人が来ないので、生活が大変です。シピボを診るのは、あまり...。彼らは、お金を払わないから」
シピボのオナヤたちは、こうしてしたたかにあらたな信者を獲得しながら、現代でも実践可能な修行を模索している。
たとえそれが最後の数人であったとしても、人間と植物との同族関係をもつオナヤが存在してくれることを願うのは、外国人の勝手な郷愁だろうか?
[注]
(※1)WWF
(※2)Ministerio de Cultura de Perú
(※3)Instituto Nacional de Estadística e Informática (INEI)
(※4)Registro Nacional de Identificación y Estado Civil (2018:27, 28)
(※5)植物としてのアヤワスカは、Banisteriopsis caapiを指すが、儀式に使用されるアヤワスカはチャクルーナと呼ばれるPsychotria viridisとの混合液を指し、幻覚作用はこのチャクルーナに含まれるDMT(Dimethyltryptamine)によってもたらされる。
渡邊由美(Yumi Watanabe)
フリーランスの戦略コンサルタントとして、大手メーカーの新興国市場参入戦略を多数手がける。2017年、パートナーと共にペルー東部アマゾンのシピボの集落に移住し、アマゾン先住民のシャーマニズムを記録する"NATIVE SOON"を立ち上げる。2022年1月、ベルリンのHMKW Visual and Media Anthropology修士課程を卒業。
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