また、京都名所の金閣寺で使用されている金箔を製造する「堀金箔粉」も、正徳元年(1711年)創業の長寿企業である。
昭和60年(1985年)に食用金箔「舞妓印」を開発、平成12年(2000年)には24K「黄金箔」製造を成功させ、現在では金箔入りの化粧水、金箔タトゥーなど若年世代向けの新製品をも手がけている。
本業を大切にしつつも現状に甘んじることなく、社訓どおり「自己革新」への努力を行ってきた。
このように生命力のあるビジネスとポリシーで「自立」と「自律」をしっかりできて(売り手よし)、現在の、そして次世代のお客様に常に求められて(買い手よし)、さらに地域社会にも必要とされる(世間よし)存在であれば、企業は長寿になる。
日本語には「不易流行」という言葉があり、俳聖・松尾芭蕉が「奥の細道」の旅の中で見出した蕉風俳諧の理念の一つである。芭蕉の俳論をまとめた書物『去来抄』では、「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」と書いてある。
「不易」は変えてはいけないものを意味し、「伝統」への重視を強調するが、「流行」は時代や環境の変化とともに積極的に自らの姿ややり方を変えていかなければならないこと、つまり「革新」の重要性を語っている。
家訓や家族精神、経営哲学(例えば上記の「三方よし」)などの堅守の「不易」と、経営環境の変化に応じた絶えないイノベーションである「流行」。この2つの意味が正反対となっている言葉をあえて1つの単語にしたことは、まさに経営を長く続けてきた日本の長寿企業の最大の知恵である。
現在のVUCA時代においても、「三方よし」と「不易流行」をしっかり実践できていれば、企業も持続的な経営が実現できると、筆者は信じている。
竇 少杰(Dou Shaojie/Shoketsu Toh)
立命館大学経営学部講師。博士(産業関係学、同志社大学)。2009年同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。同大学技術・企業・国際競争力研究センター特別研究員、立命館大学経営学部助教を経て2019年から現職。主な業績に『中国企業の人的資源管理』(中央経済社、2013年)、『現代中国の経済と社会』(中央経済社、2022年)、『"新常態"中国の生産管理と労使関係』(ミネルヴァ書房、2022年)など。
『東アジアの家族企業と事業承継──その共通性と多様性』
竇 少杰、河口充勇、 洪 性奉 [著]
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