湛山は自身を「有髪の僧」と称した。湛山の父湛誓は日蓮宗総本山身延山久遠寺の法主もつとめた高僧である。
宗教家になるべく育った湛山は、甲府中学では、札幌農学校でウィリアム・クラークの薫陶を受けた大島正健校長に感化され、早稲田大学では、シカゴ大学でジョン・デューイに学んだ田中王堂からプラグマティズム哲学を伝授された。言論人になる以前に、思想家の基礎は築かれていたのだった。
27歳のときの論説「哲学的日本を建設せよ」で湛山は言っている。「自己の立場に対する徹底的智見を立てよ、而してこの徹底的の智見を以て一切の問題に対する覚悟をせよ」。
ケインズに比肩しうるエコノミストとなった湛山は、敗戦を機に政界へ身を投じ、病気のためわずか2カ月で辞任したとはいえ、総理大臣にまで登りつめた。明治末期から昭和までを駆け抜けた、まったく稀有な自由主義者だった。
主要な論説が英訳されれば、「世界史のなかの石橋湛山」に光があたる。そのとき、戦時中に孤立した湛山のリベラリズムが、いまだ日本では孤立したままであることに気づかされるはずだ。
佐々木実(Minoru Sasaki)
1966年大阪府出身。大阪大学経済学部を卒業後、1991年に日本経済新聞社に入社。95年に退社してフリーランスに。『市場と権力』(現・講談社文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞を受賞、『資本主義と闘った男』(講談社)で城山三郎賞と石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した。近著に『宇沢弘文 新たなる資本主義の道を求めて』(講談社現代新書)。
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