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経済学

値上げをすると売り上げが減る、でも利益は増えるカラクリとは?──「需要法則」からの接近(上)

2022年11月10日(木)07時59分
安田洋祐(大阪大学大学院経済学研究科教授)

しかし、現実には多くの企業が売上ではなく利益の増大を目指している。あるいは、目指すようにステークホルダー(利害関係者)から一定のプレッシャーを受けている。ここでは、利益を追求する企業を想定してみよう。売上と利益はそれぞれ次のように計算することができる(「費用」は商品一単位あたりのもので、総生産量によらず一定の値だと仮定する)。


〈売上と利益〉
・売上=価格×販売量
・利益=(価格─費用)×販売量


いま、値上げを行う前と後の具体的な数値が次のように与えられているとする。さきほどのストーリーに合わせて、10%の値上げによって販売量が20%減る状況を描写している点に注意して欲しい(図1)。
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どうだろうか。値上げによって売上は確かに12%減少しているが、その一方で利益は200万円から240万円へと、実に20%も増加していることが分かる。

一見すると不思議な現象が起きている理由は、マージン(あるいはマークアップ)と呼ばれる商品一単位あたりの販売利益の大幅な増加にある。

実際にマージンは値上げ前の2000円(=10000円─8000円)から、値上げ後の3000円(=11000円─8000円)へと、一気に50%も増加している。これが、販売量が1000個から800個へと20%も落ち込んだにもかかわらず利益が増えるカラクリである。

以上の計算は、説明のために用意した架空の数値に基づくものであるが、ここから次のような一般的な教訓を得ることができる。


〈教訓1〉 利益を増やすためには売上を犠牲にするほど積極的に値上げすべし!


もちろん、すでに十分高い価格を付けているような場合は、さらに値上げする必要はない。また、どの程度の値上げが最適かは、企業の置かれた状況によって異なる。

〈教訓1〉のポイントは、値上げを行っても売上が減らないような価格水準というのは、利益を最大にする価格と比べて常に低すぎる、つまり決して最適にならないという点である。そもそもの出発点であった「価格を上げると売上が増える」という言説は誤りであった。むしろ、こうした現象が起こらない、つまり「価格を上げると売上が減る」ような高い価格を企業は設定するべきなのである。

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