ただ、私はこの問題は、「経済学の常識と世間の常識」のズレというよりは、世間の常識で考えてもおかしいことを政治家、政策当局者の不作為で是正していないということではないかとも感じた。
宇南山氏も「実務上の問題として、個人ごとに保有する金融資産の価値を、名寄せしてリアルタイムに把握するようなデータベースを政府は持っていない」と指摘する。
まさにマイナンバーなどを使えばこうしたシステムの構築が可能なのに、政府は個人のプライバシーなどを理由とする抵抗を恐れ、個人資産を適正に把握する努力をしてこなかったのである。
今後、超高齢化社会が進むなかで「高齢者=弱者」という従来の観念ではもはや社会保障や財政は維持できないであろう。豊かな高齢者はむしろ支え手に回らなければならなくなる。
こうした観点でみると、「中小企業=弱者」「地方=弱者」などこれまでの「弱者の定義」の見直しも必要な時期にきているのではないか。
また「経済学の常識」と「世間の常識」のズレを解消し、経済学の知見を政策にいかすには、経済学と世間の橋渡し役としてのメディアの役割も大きいことは肝に銘じたい。
藤井彰夫(Akio Fujii)
1985年日本経済新聞社入社。経済部、ニューヨーク駐在記者、欧州総局(ロンドン)編集委員、ワシントン支局長、国際アジア部長、Nikkei Asian Review(NAR)編集長、上級論説委員などを経て2020年より現職。早稲田大学政治経済学部卒。著書に『G20──先進国・新興国のパワーゲーム』(日本経済新聞出版社、2011年)、『イエレンのFRB──世界同時緩和の次を読む』(同、2013年)、『リブラの野望』(共著、同、2019年)、『シン・日本経済入門』(同、2021年)など。
『アステイオン 96』
特集「経済学の常識、世間の常識」
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