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経済学

最高峰の学術誌で発表された「やり抜く力 GRIT」の育て方──非認知能力の重要性(下)

2022年06月20日(月)08時12分
中室牧子(慶應義塾大学総合政策学部教授/東京財団政策研究所主幹研究員)

これまでの数々の研究の中で、やり抜く力は成績や学歴だけでなく、仕事や結婚が長続きするかどうかとも関連していることが明らかになっている。

アラン教授らは、これまでに行われてきた研究に基づいて、やり抜く力の強い人が高い成果を上げられるのは、失敗や挫折を乗り越えて、難しい課題に取り組む努力をする意欲があるからではないかという仮説を立てた。

このため、現役の小学校教員やコンサルタント、童話作家、アーティスト、教育心理学の研究者などからなるチームが、アニメーション動画、ケーススタディ、授業内活動などで構成される特別のカリキュラムをつくり、それを実施する教員を養成するための教員研修を行ったのだ。

ただし、このカリキュラムは、特定の単元についての教材の提供にとどまるものではなく、教員の授業のやり方を変えることによって、子供たちのマインドセットを変えようとした点に特徴がある。

教員は子供たちに、①目標を設定することが重要なこと、②その目標を達成するためには、努力をすることが大切なこと、③失敗や挫折を建設的に考えることの重要性、そして、④人間の能力というのは決して生まれつきのものではなく、努力によって変えられること、を随所で伝えるように指示される。

例えば、実際に子供たちを褒めるときには、良い結果だけではなく、生徒の「努力」を褒めることが推奨された。成功における努力の役割を強調するように助言されたのだ。研修を受けた教員は、全部で10回、12週間の間に最低2時間程度でこのカリキュラムを実施した。

アラン教授らは、トルコのイスタンブールにある公立小学校のうち、こうしたプログラムに関心を持つ教員が1人でもいる学校を、ランダムに処置群と対照群の2つに分けた。

2回行われた実験のうち、1回目の実験では処置群15校、対照群21校の合計2500名の生徒が対象となった。2回目の実験は別の学校で行われ、処置群8校、対照群8校の1500名の生徒が対象となった。

そして、二度の実験が終了した後、生徒たちの自己申告に基づく質問紙調査から、介入を受けた生徒たちのやり抜く力が高まったことが証明されたのだ。加えて、難しい課題を解くとご褒美が得られるというゲームを行うと、介入群の生徒は、より挑戦的な目標を設定し、自分のスキルが高まり、より高い報酬を得る確率が高いことがわかった。

そして、この効果は介入後2.5年後に行われた追跡調査で現れ、介入群の生徒は、数学の学力テストが偏差値で2倍ちかくも高かったのだ。

このような実験が可能になった背景には、トルコ教育省によりすべての小学校では、民間・NGO・国際機関などによって提供される課外プロジェクトに、教師の裁量で参加することが奨励されており、学校は週に最大5時間をこうした講義に充てることができることがある。

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