この危機はトランプがこの4年でもたらしたものではなく、少なくともここ数十年をかけて2大政党の双方が、いわば「共犯」となって引き起こしたものだ。結果として、建国以来の自由主義や民主主義の正統性まで危うくしている。いや、すでに建国の時点で、この危機の芽は胚胎していたのではないか。『アステオン93』の特集「新しい『アメリカの世紀』?」に寄せられた論考全体を通して読むと、そうした感慨を持たざるを得ない。
足下の情勢を考えるうえで、興味深いのはマーク・リラの「液状化社会」だ。いま米国で起きている事態を左右の「分断」の激化として説明しようとする向きが多いが、「おなじみのアメリカ政治の二分法」、つまり保守・リベラルの対決構図ではトランプ現象は読み解けない。評者も常々指摘してきたことが、最新のデータも援用しながら説かれている。おそらく連邦議会に乱入した暴徒らも含めて、トランプ支持者らは経済問題では従来リベラルとされてきた政策を求めている。貿易保護主義や社会保障・医療保険がその例だ。ところが、社会問題となると従来の保守の価値観を支持している。妊娠中絶が代表例だ。経済問題だけを捉えれば、米国民全体が左傾化しているのである。その理由は明らかだ。ユーラシア・グループの報告でさえ率直に認めざるを得ないほどのすさまじい格差が生じているからである。
「おなじみのアメリカ政治の二分法」では現状には対応できないということは、いまの2大政党の枠組みでは人々の期待に応えることはできないということだ。だから、共和党はトランプに乗っ取られ、民主党はサンダース上院議員に引っかき回されている。いずれも従来の党内エスタブリッシュメントとは無縁な政治家である。つまり、従来の2大政党の枠組みでは、米国が直面する問題には対処できず、本来なら政党再編が必要なくらいの状況なのだ。にもかかわらず現行の制度では第3党が入り込む余地はないから、人々の声を背景に部外者が門扉を倒して土足で入り込むという「革命」に近い状況が生まれている。
vol.101
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