アステイオン

日本

天皇を論じる時代

2018年12月04日(火)
佐々木雄一(首都大学東京助教・「天皇の近代」研究会メンバー)

SUNTORY FOUNDATION

平成も残すところ半年を切った2018(平成30)年11月9日、第12回サントリー文化財団フォーラム・東京が開催された。「天皇の近代」研究会がその活動を終え、『天皇の近代――明治150年・平成30年』(千倉書房)として研究成果がまとめられたのを機におこなわれたものである。登壇者は研究会メンバーの原武史氏と河野有理氏。研究会主宰者の御厨貴氏からも、研究会の狙いや今後の展望についてメッセージが寄せられた。

「結果として、結果のほうがむしろ能動的」。

天皇退位をめぐる一連の流れに関する御厨氏の言である。このあたりが、フォーラムのキーワードになっていたように思われる。

2016年8月に「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」(以下、「おことば」)が出され、やがて退位の道筋がつけられていく。メッセージを国民に向けて発するという能動的な行為によって、終身在位の原則が少なくとも現天皇に関しては解除された。

しかし、話はそこで終わらない。「おことば」が発せられて以降、退位問題と関連して、天皇や天皇制についてさまざまな議論がなされた。天皇を論じる日常の登場である。今回のフォーラムもまた、その一つのピースと見ることができるだろう。「天皇の近代」研究会自体は2015年に始まったのであって、退位問題を受けて発足したわけではないが、2018年時点になってみれば、それと無縁ではない。これから平成の終わりをどのように捉え、論じていくかという実践的な課題があるからこそ、多くの出席者を得て熱気を帯びた会となった。

折しも、11月9日は秋の園遊会がおこなわれた日であった。新聞各紙には、「平成最後の園遊会」の文字が並んだ。

もちろん昭和にも、結果的に昭和最後となる園遊会はあった。しかしそれは、「昭和最後の園遊会」としては報道されない。「昭和の終わり」が昭和の間に大々的に論じられることはなかった。

それに対し平成の場合、平成最後の夏、平成最後の年賀はがき、といった具合に、そもそも「平成最後」という言葉がそこかしこで使われている。そして「平成の終わり」が、平成の総括が、あるいは新たな代の展望が、ごく自然なことのように平成のうちに論じられているのである。

摂政の設置では、そうはならなかった。「おことば」を発するという行為、その内容、その後の議論、そして退位の日が定められたことは、すべてが相まって、天皇をめぐる言説空間と時代の論じ方を変容させた。

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