社会システムをデザインする能力は、体系的知識、問題発見能力、実践的スキルの3つを習得することが重要となる。体系的知識は学校で学ぶことができる。問題発見能力や実践的能力は学校と民間どちらでも学ぶことが大事であるが、そのバランスをどうするかを考えていく必要があると主張する。スタンフォード大学や東京大学では、d.schoolやi.schoolと呼ばれる単位には認められないが、大学の外で学生が集まって問題発見能力や実践的スキルを身に着ける教育が行われている。一方、京都大学は大学の中にデザインスクールを作って、これらの能力やスキルを教育している。実践的スキルや発見能力の教育を学校で行うとしても、それを学校の中で行うか、外で行うかという形も議論していく必要がある。
また、技能再教育(Reskilling)の重要性も指摘する。これまでの時代は、学生のときに教育を受け、一つの仕事をし、60歳ぐらいで退職して余生を楽しむというライフプランであった。Society 5.0時代では、学生のときに教育を受けるのは同じであるが、ぐるぐると複数の仕事を転職しながら、技能を再教育していき、90歳ぐらいになって初めて余生を楽しむというライフプランになるのではないかと主張する。
報告後の質疑応答では、様々な議論が行われた。職を変えながら技術再教育をしていくことが大事だとしても、職を変えるという最初の一歩が踏み出しにくい人が多いであろうから、最初の一歩の踏み出しを軽くするために、国内の大学間で交換留学するのはどうかという提案があった。半年から1年程度、自分が所属する大学とは異なる大学に行って経験を積むことで、乗り換え費用を下げることが狙いだ。社会に出たとき、こうした経験が場所や仕事を変えることの心理的費用を下げるのではないかという主張だ。こうした提案に対して、実際にこのような制度がある大学があり、この制度を利用した人は職や場所を移ることに抵抗がないと感じると、フロアから実例が上がった。
IoTの技術を取り入れて自動化する際、設計から投資対効果の仮説検証、実装のすべてをエンジニアができるような教育が必要であるという主張に対して、スタンフォード大学でもそのようなデザインも含めて実践できるデータサイエンティストの育成を試みているが、スタンフォード大学ですらそのような人材の育成に成功していないという意見が紹介された。その上で、アメリカのテック系の企業では、仮説検証を行えるデータ分析の専門家を採用して、各部署に配置して、仮説検証をエンジニアとデータ分析の専門家の協業によってこの穴を埋める動きがあるという事例が紹介された。
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