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テクノロジー

Society 5.0におけるデザイン力

2018年06月15日(金)
黒川博文(日本学術振興会・同志社大学政策学部 特別研究員・2015年度 鳥井フェロー)

また、小さな企業でOJTしながら、原材料の仕入れから販売までを行うことを学んで発明に至った科学者の話が紹介された。小さな企業ではこのようにOJTしながら、非常に広い視野を持つことができるが、大企業では分業化、専門化が進むため、幅広い視野を持つことが難しいという意見があった。それに対して、栄藤氏は、大企業では「いつ」「どのように」プロジェクトを進めるかということに対して責任を負うProject managerの育成に傾倒しがちで、「何を」「どうして」作るのかということに対して責任を負うProduct managerが育ちにくいと指摘した。

質疑応答での話題は途絶えなかった。大学の中の教育と実務教育のつなげ方として、大学院修了者を雇う企業に対して補助金を出すのはどうか。工学部の情報経営において、社会実装の必要性を説いても、基礎をしなくてよいのかと批判されてしまう。サイバーセキュリティーの問題はどうするか。人とAIが組み合わさったときに、人はどう変化するのか。機械に対してはゼロリスク志向を求めがちだが、機械に対してもリスクや費用と便益を見比べたうえで、議論していく必要があるのではないか――など。

産業革命のときに、馬車が蒸気機関車にとって代わられ馬が技術的失業した。今回は、人間がAIに取って代わられ人間が失業するのではないかと心配する人がいる。産業革命のときと同様に、職がなくなると同時に、より複雑な新たな職が生まれる。人間は馬とは違い、新しく複雑な職に対する比較優位があるため、失業しないという見方がある。こうしたまだ見ぬ新たな職を生み出し、適応するには、常に、様々な技術を身に着けていく努力をする必要があるだろう。また、機械による自動化とこれまで付き合ってきたように、AIと共生し、AIを活用した社会システムをデザインする力を身に着けていく必要がある。そのデザイン力に必要な知識は、サイエンスやエンジニアリングの知識だけでなく、実装したときに社会経済へどのようなインパクトがあるかという社会に対する洞察も必要である。経済、法律、倫理などの様々な人文社会科学的な知識がこうした洞察には活かされるであろう。今まで以上に幅広い知識を習得することが求められる。

Society 5.0ではAIや機械との競争ではなく共創がカギとなるのではないだろうかと感じられるサロンであった。

黒川 博文(くろかわ ひろふみ)
日本学術振興会・同志社大学政策学部 特別研究員
2015年度 鳥井フェロー

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