タトゥーの人も入浴OKへ、温泉業界が変わる?
<長らく「入れ墨・タトゥーお断り」としてきた日本の温浴施設だが、ファッションタトゥーや外国人観光客の増加で賛否両論が巻き起こっている。そもそも、どんな理由でいつからタトゥーNGなのか。そして、先行して条件付きOKに踏み切った施設の現状とは>
【シリーズ】日本再発見「日本ならではの『ルール』が変わる?」
2013年秋、北海道のアイヌ民族会との文化交流のため来日していたニュージーランドの先住民族マオリの女性が、民族伝統の入れ墨にもかかわらず、それを理由に温泉施設での入浴を拒絶された"事件"があった。これをきっかけに議論が巻き起こったのが、日本の温浴施設における入れ墨・タトゥー拒否問題だ。
2014年には、脳科学者の茂木健一郎氏がTwitterで「タトゥー、刺青は入浴お断り、という不当な差別をしている限り、日本の温泉の世界遺産登録は無理だね。」と糾弾し、賛否両論が巻き起こり炎上騒ぎとなった。
また、今夏にも東京サマーランド(東京あきるの市)が、公式ブログで「イレズミを身体に入れる自由があるようにイレズミの方の入園をお断りする自由もある」、「イレズミのあるお父さんやお母さんと一緒に来たちびっ子は本当の気の毒」など、煽情的ともとれる文章を掲載(後に削除しブログ上で謝罪)して大きく報道されるなど、いまや温浴施設やプールにおける入れ墨・タトゥー可否問題は、国内世論を二分する大きな問題となっている。
最近は若い世代を中心にファッションタトゥーを入れる人が増えてきたとはいえ、未だに入れ墨・タトゥーに対する抵抗感は根強く残る。そんな現状にあって、問題の舞台である温浴施設の対応とはいかなるものだろうか。
銭湯はOK、スーパー銭湯はNGの歴史的経緯
昨年10月、観光庁が全国のホテルや旅館、約3800施設に対して実施したアンケートの結果(回答数約600施設)、入れ墨・タトゥーがある客の入浴について約56%の施設が拒否と回答。一方、拒否していない施設は約31%で、シールで隠す等の条件付きで許可している施設が約13%という結果となった。
ちなみに、入れ墨やタトゥーの入った客を拒否している施設の多くは、日帰り温泉やスーパー銭湯といった"温泉施設"であり、町場の銭湯ではない。というのも、日帰り温泉等とは異なり町場の銭湯では、入れ墨・タトゥーを入れているからといって、入浴を断ることを法律で禁止されているからだ。
これは、銭湯が自宅に内湯のない時代から存在する日常的な入浴の手段であり施設であるため。入浴し身体を清潔に保つことは万人に認められた行為であり、入れ墨・タトゥーを理由に入浴を断れば、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めた憲法25条の「生存権」に抵触する可能性がある。
なお、公衆浴場法でも、営業者は伝染病患者を拒否しなければならない(第4条)、入浴者は浴槽内を著しく不潔にしてはならない(第5条)などと利用に関する規定を定めているが、入れ墨やタトゥーに関する条文は存在しない。
では、なぜ日帰り温泉やスーパー銭湯といった施設だけが入れ墨・タトゥーを入れた客を拒否できるのか。また、それはいつ頃から当たり前のように行われるようになったのだろうか。
これには「80年代中盤より登場しはじめ、90年代にブームとなったスーパー銭湯の影響が大きい」と指摘するのは、温浴振興協会代表理事の諸星敏博氏。暴力団対策法(暴対法)の締め付けもいまほど厳しくなかった当時、スーパー銭湯への来場者が増え、それに比例して反社会的な人物の来場も増えた。銭湯とは異なり、食事やアルコールも提供し滞在時間も長い温浴施設となれば、トラブルも多発したことだろう。「そうしたことから一般の利用者からのクレームが増えたり、利用そのものを敬遠する動きが出てきた。そうなると施設側も対応を検討せざるを得ない」
加えて、「公衆浴場法などにおける分類の違いも大きな要因」と諸星氏。国による公衆浴場法や都道府県が定める公衆浴場条例では、銭湯が"一般公衆浴場"に分類される一方、日帰り温泉やスーパー銭湯などは"その他の公衆浴場"に分類される。
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